天才漫画家・岸辺露伴とは何者なのか?荒木飛呂彦が”理想の漫画家像”を込めた「ジョジョ」屈指の人気キャラクターに迫る
コミックを飛び出し活躍する売れっ子漫画家、岸辺露伴
ここで、原作における岸辺露伴の設定について、ざっと紹介しておこう。彼は「ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない」の「漫画家のうちへ遊びに行こう」のエピソードで初登場。漫画家デビューは16歳の時で、代表作は「ピンクダークの少年」。煩わしい人間関係を嫌い、アシスタントはなし。わがままな性格で、プライドも高い。彼がなによりも大切にしているのは、読者のためにおもしろい漫画を描くことだ。そのためには、リアリティが重要だと考えていて、リアリティを追求するためには手段を選ばない。
露伴は「ヘブンズ・ドアー(天国への扉)」というスタンドによって、人を”本”に変え、その人物の人生、記憶、経験すべてを文字で読むことができる。また、本に書き込みをして、相手の行動を操ることも可能。まさしく、観察者であると同時に表現者である天才漫画家、岸辺露伴にふさわしいスタンドだ。
「ジョジョ」には魅力的なキャラクターが多数登場するが、スピンオフ作品まで制作されているのは岸辺露伴のみ。しかも、コミックにとどまらず、アニメ、小説、ドラマ、映画と、様々なメディア展開がされている様子は、もはやスピンオフの枠を超えており、いかに露伴がファンに愛されているかの証と言えるだろう。
さらに露伴は、「週刊少年ジャンプ」の月例新人漫画賞「ホップ☆ステップ賞」で審査員を務め、投稿作を採点したり(実際は荒木飛呂彦による審査)、コミック「名探偵コナン」のコラム「青山剛昌の名探偵図鑑」に探偵として取り上げられたりと、「ジョジョ」の枠を飛び出した活躍も見せている。
露伴の漫画に対する情熱と執念、プロフェッショナルな職業意識は、いまも「ジョジョ」を描き続けている原作者の荒木本人にも通じるものがある。荒木は露伴のことを自身の投影ではないと否定しているが、「漫画家にとっての理想像を具現化した」キャラクターだと語るほど、岸辺露伴は本当に特別なキャラクターなのだ。
原作の露伴とドラマの露伴、それぞれのよさ
原作の露伴は、「ジョジョ」第4部では20歳、「岸辺露伴は動かない」シリーズでは27歳の設定になっている。作品が描かれた時期によって年齢に違いはあるが、いずれも20代の若者という点では変わらない。一方、ドラマ版の露伴は、高橋一生が演じていることもあり、成熟した大人の男性として登場する。それによって、子どものように純粋な好奇心の強さ、時折のぞく大人げなさなど、子どもと大人が同居しているような露伴の個性がより際立つことになった。
またドラマ版では、本編の”スタンド能力”という設定をカット。人を本に変える「ヘブンズ・ドアー」の能力は、あくまで露伴に備わった特殊能力として描かれているため、「ジョジョ」をまったく知らない人も、すんなりと世界に入り込める構造になっている。
ドラマ版で露伴のバディとも言えるキャラクターが、飯豊まりえが演じる担当編集者、泉京香。ドラマ制作時、泉は原作の一篇「富豪村」にしか登場していなかったため、ドラマの彼女は一種オリジナルとも言える。ドラマ第2期放送後、荒木が「ジョジョマガジン 2022 SPRING」に収録した読み切り作「ホットサマー・マーサ」のなかで、泉を露伴の担当編集者として再登場させたことは、ドラマ、原作の両ファンを大いに喜ばせた(「ホットサマー・マーサ」は、ドラマ第3期の原作にもなった)。
原作では露伴が27歳、泉は25歳と、同世代の設定だが、高橋と飯豊が演じる実写版では、大人と若者という世代の違いもある。偏屈な露伴に対し、どこまでも天真爛漫な泉というキャラのギャップも楽しく、愛すべき凸凹バディ感を盛り上げている。
そのほか、ドラマ版では、人間の皮膚がペリペリ…と音を立てながら剥がれて本のページが現れる衝撃的な描写はもちろん、露伴が漫画を描く前に行う手指の準備体操、ファンを大切にする露伴が目にも止まらぬ早業で彼らにサインを描いてあげるシーンに至るまで、原作における重要なお約束ポイントを余すことなくしっかり再現。
ギザギザのヘアバンドやGペンをモチーフにしたピアスをはじめとする露伴のファッション、ふわふわのシフォンやリボンが印象的な泉のコーディネートなど、キャラの個性を表現するモードなコスチュームも原作のイメージどおりだ。“ジョジョ立ち”と呼ばれる、原作で描かれるキャラクターたちのクールかつエキセントリックなポージングを、「ジョジョ」の大ファンである高橋が自らさりげなく決める瞬間も見逃せない。