生田斗真主演作『渇水』試写会の感想は?多忙な現代人がふと立ち止まり、考えさせられるコメント多数
1990年に第103回芥川賞候補となり、当時大きな注目を集めた河林満の名編を原作に、孤独を抱える水道局員と幼き姉妹の交流を生田斗真主演で描く『渇水』。
6月2日(金)からの公開に先駆けて、MOVIE WALKER PRESSでは試写会を実施。「思うところはいろいろありましたが、まだ咀嚼できません。ただ、じんわりとさざなみのような余韻が残って不思議な気持ちです」(40代・女性)など、生きることの哀しさが、厳しくも優しく紡がれる本作。その魅力について、鑑賞した観客の言葉と共にひも解いていく。
キャスト陣が丁寧に体現する、複雑でリアルなキャラクター像
『凶悪』(13)、『孤狼の血』(18)、『ひとよ』(19)など、日の当たらない世界に生きる人々を題材に、数多くの映画を撮り続けてきた白石和彌が初めて企画プロデュースを担当し、高橋正弥監督がメガホンを握った『渇水』。
日照り続きによる水不足が街を襲うある夏。市の水道局で働く岩切(生田)は、同僚の木田(磯村勇斗)と共に料金滞納者を訪ね、水道を停めて回る業務を担当していた。給水制限が発令されるなか、父は蒸発し、母(門脇麦)も不在がちな家に残された幼き姉妹と出会った岩切は、葛藤しながらも規則に則り、貧困家庭にとって最後のライフラインである水を停止。しかしこの出会いが、日々を無為に過ごしていた岩切を変えていく。
「派手さはないけど、人物描写が丁寧でよかった」(30代・男性)とあるように、停水をきっかけに紡ぎだされる人間模様に深みをもたらしているのが、リアリティを感じさせるキャラクターだ。例えば、生田が演じる主人公の岩切は、プライベートでは妻(尾野真千子)と息子との関係に問題を抱え、職場では精神が蝕まれる停水業務を「規則だから」と割り切ってこなすうちに心まで渇いてしまった孤独な男。
「岩切が仕事に対する葛藤や家族の問題を抱えていて、内側にいろいろと秘めている部分に共感した」(50代・男性)という言葉が示すように、心にモヤモヤを抱きつつも、人生をあきらめたかのように感情を無視する岩切。生田は覇気のない眼差しや淡々としたセリフ回しなど、抑えめの演技によって巧みに感情を表現している。
「最初からすべてを察していて、あきらめていて、でも我慢しているような心情が伝わってきました」(20代・女性)
「生田さんの演技がさすがでした。抑えるところ、感情を表すところがどちらもリアルに伝わってきました」
「生田さんの新しい一面が見られた」(40代・女性)
姉妹との出会いを通じ、しだいに不条理な世の中に対する葛藤を抑えきれなくなり、ついに感情が爆発する…岩切の心情の変化を丁寧に活写した生田のエモーショナルな演技には心を奪われた人も多かったようだ。
感情を秘めがちな岩切に対し、同僚の木田は「なんで水はタダじゃないんですかね?」と滞納者への同情を口にしたかと思えば、滞納者の不遜な態度に怒りを覚えたり…と、感情をすぐに表に出す等身大な若者。「停水に対して、相手の対応やその場の状況で考えが変わるところがとても人間的でリアルでした」(40代・男性)、「一番人間臭くて共感できました」(30代・男性)と磯村がナチュラルかつ表情豊かに体現した人物像は共感を誘ったよう。
また、生活が苦しいなかでも、なんとか子どもを育てるために必死に働く姉妹の母親(門脇)には「門脇さん演じる母親の、裏側の心情がせつなかった」(20代・女性)、「過去の出来事やいろいろな思いがあるなかでの孤高の姿がつらかった」(10代・女性)など、女性からのコメントが多かったのが印象的。気丈さとその裏にある弱さという二面性を表現した演技には「門脇さんの演技がすさまじかった」(50代・女性)と絶賛も寄せられた。
そして忘れてはいけないのが、山崎七海と柚穂が演じた子どもたち。つらい現実に心が折れそうになりながらも、2人で支え合って生きる健気な姿には「大人の都合に振り回されながらも妹を守るため懸命に頑張る姉の姿が心に残りました」(20代・男性)、「最後に希望を持つことができた。姉妹の2人がとてもよかった」(40歳・男性)といった言葉が散見していた。