デビュー10年を迎えたBTS。『Burn the Stage : the Movie』から最新ドキュメンタリーまで、劇場公開作品でたどる軌跡と未来
メンバーの覚悟に涙する『BREAK THE SILENCE:THE MOVIE』(20)
ドキュメンタリー映画三部作のラストは、2020年に公開された『BREAK THE SILENCE:THE MOVIE』で、BTS初のワールドスタジアムツアー「BTS WORLD TOUR ‘LOVEYOURSELF: SPEAK YOURSELF’」に密着している。筆者は個人的に、この作品が一番印象に残っている。一作目の公開年である2018年の時点で彼らはすでに世界中で人気ではあったが、この頃にはもう、当時とは比較にならないぐらいの世界的アーティストとなっていた。そんな7人のリアルな心情を劇場で目の当たりにして、思わず涙したのを覚えている。
ソウルでのコンサートの最終日、RMが「いま『自分を愛しているか?』と聞かれたら、まだよくわかりません。僕は肌が少し浅黒くて、目もこんな形、声もこんなんで…」と話すと、会場にいるARMYたちが全力で否定する。その反応を見て彼は「皆さんのおかげで自分をもっと愛せるようになりました。もう流されません」と笑顔で語り、涙する。RMはいつだってメンバーだけじゃなく私たちARMYにとっても頼り甲斐のあるリーダーで、でもちょっと抜けている可愛いところもあって、そして誰よりも繊細な心を持っている。だからこそ、これまで誰も成し遂げたことのなかった「アジアのボーイズグループが世界的アーティストになること」へのプレッシャーは相当だったと思うし、彼らに常時浴びせられていた心無い言葉やアジア差別にも人一倍、心を痛めていたのではないだろうか。そんな彼が「自分自身を愛する」までに、一体どれだけの時間を要したのだろう…。
最年長のJINの言葉にも胸を打たれた。彼は「SNSでARMYが僕たちの幸せや喜びを共有してくれるのと同じくらい、苦しみや悲しみも共感してくれると知ってからは、できるだけそういう場面を見せたくないと思っている」と話す。「僕は一人の時はすごく静かなんですよ」と。表では常に笑顔で、最年長なのに弟たちからいじられて楽しそうにしている姿をたくさん届けてくれる彼は、本当にメンバーとファン想いだ。
三部作を通して、音楽への愛情をたっぷりと見せてくれたのはSUGA。「いい影響を与えられる音楽を作りたいです。文化は人を変えるうえで強大な力を発揮するから」と語っていた。J-HOPEは「青春を全てBTSに捧げてきたから、失ったら自己紹介の仕方もわかりません」と語っていたのが印象的だった。同じようにJIMINも「デビューして失ったものがたくさんあります。友達を失って、僕を僕として見てくれる人を失いました。でも本当に大事な友達を得たし、自由を失ったけど、もっと自由な場所を得ました」と語る。青春を犠牲にしてBTSになってくれて、いつでもARMYのために全力で駆け抜けてくれて、最高の姿を見せてくれて…どれだけ感謝の言葉を伝えても伝えきれない。
Vは“BTSのV”と“キム・テヒョン”(Vの本名)を切り離して考えている。「キム・テヒョンはやりたいことがたくさんある」と無邪気な笑顔を見せながら話しているシーンは、感受性豊かなVらしい。一方、JUNG KOOKは「BTSのJUNG KOOKとチョン・ジョングクは分離する必要がありません。ジョングクにもいいところがあるから」と語る。メンバーも驚くほどなんでもそつなくこなし、歌もダンスも愛嬌も完璧な“最強マンネ”なのに、「僕にはなにもない…」と少し寂しそうにつぶやくJUNG KOOKは、あまりにも衝撃的だった。彼はいまでも「なにもない」と感じているだろうか。いまの心の内を、いつか教えてほしいなと思う。