『さらば、わが愛 覇王別姫』やウェス・アンダーソン監督作を彷彿…中国映画界の新たな才能に出会う『椒麻堂会』特別対談

インタビュー

『さらば、わが愛 覇王別姫』やウェス・アンダーソン監督作を彷彿…中国映画界の新たな才能に出会う『椒麻堂会』特別対談

「大掛かりなセットを使う方法はウェス・アンダーソン監督の映画との類似点も感じます」(徐)

――本作は、チェン・カイコーが監督した『さらば、わが愛 覇王別姫』(93)やチャン・イーモウ監督が手掛けた『活きる』(94)と比べられることが多いようですね。

ヤン「『さらば、わが愛 覇王別姫』は、私も何度も観ているくらい大好きな映画ですが、『椒麻堂会』とは時代背景がほぼ同じですし、京劇(きょうげき・北京を中心とする中国の伝統的な演劇)と川劇が物語の背景になっていて、主人公たちの運命と時代の変化とが重なり合っていく物語展開もよく似ているなと思います」

徐「2作品とのつながりはもちろん、大掛かりなセットを使う方法はウェス・アンダーソン監督の映画との類似点も感じます。手法が似ていると感じるのは、グー・シャオガンが監督した『春江水暖~しゅんこうすいだん』。どちらも絵巻的な手法で、中国の歴史とそこで翻弄される人々を描いています。それと『椒麻堂会』では、連環画(中国における漫画のような本のスタイル)とのつながりも意識しているはず。なにより重要な要素は演劇です。映画のなかで邱福が言う『幕が降りても劇は終わらない』というセリフは演劇の在り方を語る重要な言葉であり、現実世界にも通じる普遍的な真理だと思います」

演出中のチュウ・ジョンジョン監督
演出中のチュウ・ジョンジョン監督

「川劇は成都の人たちに親しまれた芸術で、お茶を飲みながら観るオペラの一つだと言われています」(ヤン)

――物語の背景にある川劇というテーマも重要ですね。ヤンさんは四川出身ですが、そもそも川劇とはどのようなものなんでしょうか?

ヤン「四川省のなかでも特に省都である成都の人たちに親しまれた芸術で、お茶を飲みながら観るオペラの一つだと言われています。『椒麻堂会』では、主人公が所属する川劇団が、時代の変遷に従い次々にその形を変えていく様子が映ります。一時は公演場所がなくなり、お茶館の客席で1曲歌うことになったり、新中国(中華人民共和国)が建国されると、人民川劇団という国有の川劇団に変わったり。四川特有のオペラの在り方と中国の近現代史とがリンクしながら表現されているんですね」

【写真を見る】『覇王別姫』のレスリー・チャン演じる程蝶衣と同じく、アヘンにハマった劇団メンバーの堕落していく様子もリアルに映しだす
【写真を見る】『覇王別姫』のレスリー・チャン演じる程蝶衣と同じく、アヘンにハマった劇団メンバーの堕落していく様子もリアルに映しだす

――こうした時代背景は、京劇の役者たちを主人公にした『さらば、わが愛 覇王別姫』とも重なり合いますが、京劇と川劇とでは、どういう違いがあるのでしょうか?

ヤン「演目自体はもちろん、衣装なども若干違うはずです。ちなみにこの映画では川劇で一番有名な“変面”が一切出てこないので、その大胆さにはちょっと驚きました(笑)。それから京劇との大きな違いは、川劇では四川方言が使われる点です。この映画のなかで話される言葉も、基本的にすべて四川方言です」


――なるほど、それは中国語に慣れ親しんだ人でなければわからない部分ですね。

ヤン「おもしろいのは、『椒麻堂会』のなかの川劇団の人たちは四川の省都である成都の方言だけでなく、重慶や、雲南省など、色々な地方の訛りが混ざっていること。いろいろな地域から集まってきた人たちによって作られた劇団だというのがよくわかります」

徐「実は、『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』や『春江水暖~しゅんこうすいだん』をはじめ、最近ヨーロッパで高く評価されている中国映画の多くが、地方の方言を使った映画なんです。私は上海国際映画祭のプログラマーも務めていますが、いろいろな国の映画を観て感じるのは、映画におけるローカル性/地域性は、グローバルに展開するうえでむしろ有利に働くということ。ヨーロッパの観客に馴染みがないはずの川劇を扱った『椒麻堂会』が高い評価を得たのは、やはり感覚で伝わる魅力があったからでしょう。ローカル的な要素から生まれる新鮮さが、いまはますます重要になってきたように思います」


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『椒麻堂会』

■上映日時
日程:7月20日(木)10:30 
会場:SKIPシティ 映像ホール

■トークイベント(入場無料)
日程:7月20日(木)14:00~
会場:SKIPシティ HDスタジオ
URL:https://www.skipcity-dcf.jp/films/nwcc01.html

■ヤンチャン(本名・楊小溪)
日本で活動する中国四川出身のYouTuber。中華グルメ情報、中国語学習、中国トレンド情報を発信し続けている。在大阪中華人民共和国総領事館広報アドバイザーなども務めた。著書に「33地域の暮らしと文化が丸わかり! 中国大陸大全」。
ヤンチャンCH/楊小溪

■徐昊辰
映画ジャーナリスト。中国上海出身。中国の映画媒体で日本映画の批評と産業分析を発表し、日本の映画媒体で中国映画市場の分析を連載している。映画を語るWEB番組「活弁シネマ倶楽部」のプロデューサーを務めている。2020年から上海国際映画祭プログラミング・アドバイザーに就任。
https://twitter.com/xxhhcc

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