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第一線を走り続ける鬼才、デヴィッド・クローネンバーグ作品を構成する“6つの要素”とは?

コラム

第一線を走り続ける鬼才、デヴィッド・クローネンバーグ作品を構成する“6つの要素”とは?

【3】進化する人類と監視社会

前述の「スターチャンネルEX」では配信外だが、「BS10 スターチャンネル」で8月放送の、クローネンバーグの名前が世に知れわたるきっかけになった『スキャナーズ』(81)も取り上げたい。劇中での超能力者たち“スキャナー”は、テレパシーによって対象者の精神に入り込み、その身体機能をコントロールしてしまう。人体に異常をもたらしたり、幻覚を見せたり、さらにはコンピュータを遠隔操作することも可能などその能力は多岐にわたる。社会に適合できず浮浪者として生きるベイル(スティーヴン・ラック)は、ショッピングモールで自身に嫌悪の視線を向ける女性を意図せず能力で攻撃してしまい、スキャナーの研究を行っている警備保障会社「コンセック」に捕縛されてしまう。施設の主任を務めるルース博士(パトリック・マクグーハン)と面会したベイルは、世界征服を企てているスキャナーたちによる地下組織の存在を聞かされ、組織を率いる凄腕の能力者、レボック(マイケル・アイアンサイド)を殺害することを要請されるのだった。

“スキャナー”と呼ばれるテレパシー能力を持つ人類による戦いを描く『スキャナーズ』
“スキャナー”と呼ばれるテレパシー能力を持つ人類による戦いを描く『スキャナーズ』[c] 1980 Filmplan International Inc. All rights reserved

本作といえば、「コンセック」の公開実験に潜入したレボックが、彼にスキャンを試みる能力者の頭を爆発させてしまうシーンがあまりにも有名。超能力者たちによるサイキックバトルは、派手な物理的アクションではなく、互いにテレパシーを送り合うことで内側から体を破壊するというもの。その特殊メイクや映像表現は絶賛され、後世の作品にも影響を与えている。特に終盤のベイルとレボックの対決では、顔や体の皮膚が裂け、血が噴き出し、眼球が破裂、発火するという壮絶なものになっている。

【写真を見る】『スキャナーズ』より、有名な頭爆発シーン!
【写真を見る】『スキャナーズ』より、有名な頭爆発シーン![c] 1980 Filmplan International Inc. All rights reserved

このような異能力の要素は、『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』では環境汚染に人体が適応するという形で表れている。プラスチックのような有害な物質を食物に換えてしまう人々が登場。これを危険視し、コントロールしようとする政府と、進化した人類たちによって組織されたグループとの攻防が描かれている。

進化する人類を危険視し、監視下に置こうとする政府(『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』)
進化する人類を危険視し、監視下に置こうとする政府(『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』)[c]2022 SPF (CRIMES) PRODUCTIONS INC. AND ARGONAUTS CRIMES PRODUCTIONS S.A. [c]Serendipity Point Films 2021

【4】知識豊富なクローネンバーグだからこその“刺激的な医学”

医学の知識も豊富なクローネンバーグが医療現場を舞台にしたサスペンスが『戦慄の絆』。双子の産婦人科医がそろって診療室で死亡していたという実話に着想を得ており、一卵性双生児の医師をジェレミー・アイアンズが一人二役で演じている。トロントで産婦人科医を開業しているエリオットとビヴァリーのマントル兄弟。兄エリオットは社交的だが弟のビヴァリーは内向的な努力家で、それぞれの得意分野で協力しながら医学界での名声を獲得し、女性との関係も2人でシェアしていた。しかし、そんな完璧な均衡は一人の女性によって崩れ去る。マントル診療所を人気女優のクレア(ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルド)が訪れ、ビヴァリーは本気の恋に落ちるのだが、エリオットも弟を装って彼女と関係を持っていたのだ。そのことを知ったビヴァリーは生まれて初めて、兄に対する反発の感情を抱いていく。


一卵性双生児の産婦人科医をジェレミー・アイアンズが一人二役で演じている『戦慄の絆』
一卵性双生児の産婦人科医をジェレミー・アイアンズが一人二役で演じている『戦慄の絆』[c] The Mantle Clinic II Limited 1988

上手く機能していたものが、異質なものの介入によって壊れていく展開はこれまでのクローネンバーグ作品にも通じるところで、アイデンティティを失い、しだいに正気を保てなくなっていくビヴァリーが痛々しい。そんな弟を突き放すのではなく、保身のためもあるかもしれないが、献身性を見せる兄エリオットの姿からはひと筋縄ではいかない複雑な兄弟の愛憎も感じられる。また、劇中にはビヴァリーの悪夢として、エリオットとつながっていた腹部から生えている管が、クレアによって噛み千切られるシーンもあり、科学者とハエが“融合”してしまう『ザ・フライ』とは異なり、双子の精神的な“分裂”を描いているのもおもしろいところ。深紅の手術着、昆虫の足のように鋭いオリジナルの手術道具も登場しており、全編に漂う禍々しさも『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』に共通する。

新しい臓器を生みだしたソールは政府の秘密機関「臓器登録所」へやって来る(『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』)
新しい臓器を生みだしたソールは政府の秘密機関「臓器登録所」へやって来る(『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』)[c]2022 SPF (CRIMES) PRODUCTIONS INC. AND ARGONAUTS CRIMES PRODUCTIONS S.A. [c]Serendipity Point Films 2021

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「鬼才デヴィッド・クローネンバーグ特集」
Amazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX」にて一挙配信中
配信中作品: 『シーバース/人喰い生物の島』(75)、『ザ・ブルード/怒りのメタファー』(79)、『ファイヤーボール』(79)、『戦慄の絆』(88)、『裸のランチ[4Kレストア版]』(91)、『危険なメソッド』(11)

「鬼才デヴィッド・クローネンバーグ特集 PART1」
【放送情報】
[STAR2 字幕版]8月11日(祝・金)~8月16日(水) 毎日21時~ 1作品ずつ・6日連続放送 / 8月26日(土)~8月27日(日) 毎日13時30分~ 3作品ずつ・2日連続放送
【放送作品】
『イースタン・プロミス[R-15指定版]』(07)、『ビデオドローム』(82)、『スキャナーズ』(81)、『ザ・ブルード/怒りのメタファー』(79)、『裸のランチ[4Kレストア版]』(91)、『シーバース/人喰い生物の島』(75)
詳細はこちら

「鬼才デヴィッド・クローネンバーグ特集 PART2」
【放送情報】
[STAR1 字幕版]9月1日(金)21時~ 全1作品
[STAR2 字幕版]9月2日(土)~9月5日(火) 毎日21時~ 1作品ずつ・4日連続放送 ほか
【放送作品】
『ザ・フライ』(86)、『戦慄の絆』(88)、『クラッシュ[R15+指定版]』(96)、『危険なメソッド』(11)、『ファイヤーボール』(79)
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