祝100巻!心霊ビデオ研究会が厳選した「ほん呪」シリーズ最恐映像はこれだ…!※本記事はお祓いを済ませております
「放送室」(「ほんとにあった!呪いのビデオ5」収録)
とある中学校のお昼の校内放送に紛れ込んだ音。「ほんとにあった!呪いのビデオ」取材班は、実際にそれが録音された放送室へ話を聞きにいく。放送室の窓から見渡せるグラウンド。その奥の木々の繁みの中には祠があり、放送室から祠の近くでなにかを見た放送部員や放送中に視線を感じた生徒もいるという。顧問の先生によれば学校は昔、旧日本軍の駐屯地だったという。そして再生される校内放送の音声…。
シリーズのベストで「怖い」作品というわけではないが、「ほんとにあった!呪いのビデオ」という形式の魅力が詰まった一本である「放送室」。「軍服を着た男の人が祠の横に立っていた」という証言はされど、それが実際に映されることはなく、なんと校内放送の録音音源のみなのである。もはや純粋な恐怖映像ですらない。
校内放送の音源には、「9月18日はかいわれ大根の日です。日本かいわれ協会が設けたPRデーです」という放送部の生徒のアナウンスの合間に、「ゼンターーイトマレッ」と叫んでいるような野太い声が確かに挿入されている。「戦時中の駐屯地だったみたいで、練兵のかけ声かもしれないですね」という顧問の先生の発言を信じ、シリーズのセオリー通りに考えたならば、厳しい訓練で命を落とした兵の怨霊の声が…となるだろう。しかし「祠は戦前から存在していたもので、特に戦没者をまつったものではない」とも先生によって注釈される。ではいったい謎の声の正体は?
舌足らずな棒読みで、かいわれ大根の記念日とその由来を伝えていく牧歌的な放送。そこに駐屯地の、祠の、練兵の…という猛烈な意味の塊が中年男性の絶叫をともなって襲ってくる。しかしそれで放課後のノスタルジックな雰囲気は消えたりしない。音声がリプレイされるごとに、祠から見た校舎へと切り替わっていき、時にカメラがダイナミックに揺らされたりもする。それでもどこか微笑ましく懐かしい雰囲気が濃厚に漂う。かいわれ大根のくだりが終わった後の、「最後に今日は健康診断があります、1年1組は保健室の前に集まってください」の一言が余韻のように響く。私たちは放課後の人気のない校舎のどこかで、この放送を聞いていた、そんな気さえしてくる。そしてそこには兵隊だかなんだかわからないおっさんの絶叫があったような、なかったような…。
呪われなくたって、なにも映ってなくたって心霊ドキュメンタリーは成立してしまう。これは限りなく本物に近いと安心して思うことができる、かつて“ほんとにあった(とされる)”映像集なのだから。私たちが体験したのかもしれない記憶を掘り起こし、時に改竄されるような感覚。シリーズの”ほんとにあった”性を強く感じさせてくれる一作である。
「訪問者」(「ほんとにあった!呪いのビデオ95」収録)
最後の一本は、昨年リリースされた比較的新しい投稿映像「訪問者」を紹介したい。シリーズ20年以上の歴史を振り返っても、この映像の得体の知れなさはトップクラスかもしれない。
夜の路上で酒を飲んでいる大学生たちが撮影した映像。不可解な現象は彼らの背後にそびえたつマンションの廊下で起こる。異変に気づいた撮影者がカメラをズーミングすると、そこには俯きながらのそのそと歩く女性がいた。その女性は各部屋の前に立ち、しばらくの間静止するという不自然な行動を繰り返している。すると今度は投稿者たちに気づいた女性がカメラに向かって手を振ってくる。友人たちのリアクションを撮るため一瞬だけカメラを女性から離してしまうが、再びカメラをマンションに向けると女性はいなくなっていた。
霊に遭遇する映像は案外ありがちで、それだけならなんら目新しさはないが、この映像に思わずゾッとしてしまったのは、この後に起こるあり得ない出来事のせいである。友人の一人が酒を買いにその場から去るのだが、わずか数十秒後にその友人がマンションの廊下を歩いている。しかも消えた女性と同じように俯きながら歩き各部屋を訪ねているのだ。
映像はここで唐突に終了する。物理的に起こりうるはずのない、あり得ない状況に視聴者の理解は置いてきぼりにされる。撮影者たちも同じようで、彼らのリアクションは恐怖というより困惑しているのが印象的だ。しかもその後のナレーションにおいて、この友人がこのまま行方不明になったことが告げられる。まさに異常事態なわけだが、スタッフによる追跡取材はなくこのまま幕を閉じてしまう。一体あの女性はなにを目的に部屋を訪ねまわっていたのだろうか。そして友人まで…。いつもならもっともらしい解釈を添えてくれるのに、ここでは考察の材料すら与えてくれない。尾を引く怖さだけがいつまでも残る。
思えば、廊下の照明が逆光となって女性の顔が暗くて判別できないのだ。それにもかかわらずナレーションでは女性と断言していたが、果たして本当に女性なのだろうか。黒くつぶれた顔の先を想像していると、静かな恐怖がジワリと押し寄せてくるだろう。
当時は採用しなかった一本のビデオテープとは…
今回紹介した以外にも、第45巻に収録の「逢魔時の怪」など恐ろしくも魅惑的な投稿映像が「ほんとにあった!呪いのビデオ」シリーズでは紹介されている。「ほんとにあった!呪いのビデオ リング編」などの長編作品も存在するので、気になった方はぜひレンタルビデオ店などで手に取ってみてはいかがだろうか。
そしてシリーズ最新作となる『劇場版 ほんとにあった!呪いのビデオ100』では、1〜7巻の構成・演出としてシリーズの基礎をつくりあげ、現在もナレーションを担当している中村義洋が満を持して復活。24年前の日付と「試合」という題が書かれた一本のビデオテープに記録されている“呪い”とは…。ぜひ劇場で目撃してほしい。
文/心霊ビデオ研究会
「ほんとにあった!呪いのビデオ」を代表とする心霊現象を捉えた映像を紹介するオリジナルビデオ作品(心霊ビデオ)のレヴューや論考等を行う同人サークル。2021年に心霊ビデオ評論誌「霊障」を発刊。