大泉洋が明かす、墨田区向島での撮影秘話「下町の風景がとても大事な要素になっている」
山田洋次監督にとって90本目の監督作となる映画『こんにちは、母さん』が公開中だ。吉永小百合と大泉洋が共演を果たして令和を生きる等身大の親子の姿を描く本作では、東京下町の風景が映画に鮮やかな彩りを加えている。悩み多き男が、母や下町の住人たちとの触れ合いを通して変化していく様子を体現した大泉は「僕らの世代は、山田監督作品のなかに映る東京下町を見て育ってきている。それはどこか、自分の原風景のようでもある」としみじみ。ロケ地での印象的な出来事や、下町の歴史を感じた瞬間について語った。
「下町の風景を見ていると、なぜか懐かしい気持ちになってくる」
本作は「男はつらいよ」シリーズをはじめ、時代と共に家族を描き続けてきた山田監督の最新作。大会社の人事部長として日々神経をすり減らし、家では妻との離婚問題、娘の舞(永野芽郁)との関係に頭を悩ませる昭夫(大泉)は、久しぶりに母の福江(吉永)が暮らす東京下町の実家を訪れる。迎えてくれた母は生き生きと生活をしており、どうやら恋愛をしている様子。戸惑う昭夫だったが、これまでとは違う母と新たに出会い、次第に見失っていたことに気づかされていく。
福江は隅田川沿いの下町に住んでいる。そばには高さ634mを誇るタワー、スカイツリーが高々とそびえ立ちながらも、下町情緒あふれる街並みを残している場所だ。山田監督は墨田区向島での撮影にこだわり、白髭神社や言問橋、隅田公園、墨田聖書教会など、実在する場所を背景にしてドラマが紡がれていく。2022年8月から11月中旬まで、東京での映画・テレビドラマなどの円滑なロケ撮影をサポートする団体、東京ロケーションボックスとすみだフィルムコミッションが協働して、撮影支援が行われた。
大泉は「下町の風景が、本作のとても大事な要素になっている」と、まるで登場人物の一人のような役割をしていると話す。「僕が生まれたのは北海道の江別市で、育ったのは札幌市。東京の下町とは関係がないんだけれど、下町の風景を見ているとなぜか懐かしい気持ちになってくる。それは僕自身、おそらく子どものころからどこかで目にしているから。もっと言えば、山田監督の映画の世界で見てきているからだと思うんです。自分が育ったところ、住んでいるところでもないのに、東京の下町は、僕らの世代にとっても原風景になっているのかなと思います」と微笑む。たしかに本作を観ていると、下町の街並みからも懐かしさや温かみがじんわりと染みわたってくる。