ホラー好きはお見逃しなく…映画パーソナリティ伊藤さとりが「台湾ホラー」の沼にハマる理由
リアルとオンラインで同時に台湾エンタメを楽しめる、初の台湾映像フェス「TAIWAN MOVIE WEEK(台湾映像週間)」。10月13日(金)から28日(土)まで開催される無料の上映イベントでは、昨今いちジャンルとして映画ファンから絶大な人気を誇る「台湾ホラー」作品の上映も予定されている。本イベントで上映される『哭悲/THE SADNESS』(21)を筆頭に、司会・映画パーソナリティとして活躍する伊藤さとりが「台湾ホラー」の魅力をひも解いていく。
容赦ないゴア描写とスリル満点のストーリーが話題の『哭悲/THE SADNESS』
ここ数年、ホラー映画ファンを唸らせているのが「アジアンホラー」という台湾、タイ、韓国といった国のホラー映画。思えば1998年に『リング』が大ヒットを記録し、その後『呪怨』(00)が登場。以来、「Jホラー(ジャパニーズホラー)」という言葉が生まれ、日本映画界に空前のホラーブームが到来。さらに両作品ともハリウッドでリメイクされるほどの人気を博したのでした。がしかし、いまやその不動の地位は揺るがされ、世界各国で次々とホラー映画が誕生。なかでも「台湾ホラー」は、近年稀に見る急成長を遂げ、その躍動感あふれる展開にホラー映画ファンも鼓動が高鳴り、激辛カレーに挑戦するが如く、より刺激強めなものを欲するようになっている気がする。そういった意味で、「超激辛好き」に勧めたいのが『哭悲/THE SADNESS』です。
興味深いのはこの作品、台湾映画でありながら監督はロブ・ジャバズというカナダ出身のアニメーター。台湾に移住した彼の作品を観た台湾の制作プロダクションが声をかけ、今作が生まれたそう。そんな気鋭のクリエイター初の実写映画で、しかもジャンルはゴア描写てんこ盛りのエクストリーム・ホラー!…と書くとグロい描写が苦手という人は早々に離脱してしまうかもしれない。けれど、これが実はとんでもなくディープな内容で、人間の隠された本能を呼び覚ますゾンビ映画なんです。だから日本でも話題を呼び、女性も映画館に詰めかけたのではないでしょうか。
『哭悲/THE SADNESS』で試されるのは王道ながらも人間の愛。ダニー・ボイル監督のイギリス映画『28日後...』(02)の続編『28週後...』(07)やヨン・サンホ監督の韓国映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(17)などでは“ゾンビ映画あるある”として、「愛する人がゾンビになってしまったら、あなたはどうする?」という究極の選択が描かれてきました。けれど本作は、そっちの方向ではなく、「離れ離れになったカップルがゾンビに噛まれずにいかにして再会を果たすのか?」というテレビシリーズ「ウォーキング・デッド」のグレンとマギーみたいなロマンティックなストーリーが実は物語の根底に流れているのであります。しかも主人公はゾンビに襲われながらも生き延びて彼氏に再会しようと戦い続ける美女カンティン(レジーナ・レイ)と、そんな彼女をゾンビから救おうとバイクにまたがりゾンビを薙ぎ倒して行くジョンジュー(ベラント・チュウ)。
ホラー版「ロミオとジュリエット」の目の前に立ちはだかるのは、ウイルスにより凶暴化した走れるゾンビのような感染者たち。しかもこの“凶暴化”というのが、いままでのゾンビ映画と異なる点。彼ら彼女たちは自分たちの欲望が悪化し行動を起こすのです。つまり性的欲求のある中年男性は女性を襲い、いじめっ子の子どもたちは残酷なまでにいじめ抜くという結果に。コロナ禍で生まれた脚本だからこそ、抑圧された人間の恐ろしさに目をむけ、エゴにまみれた容赦ない殺戮シーンが展開されるというわけ。まさに当たり構わず人間を襲うとは違う、自分を制御できずに本能に忠実なまでに凶暴化した前代未聞の悪人ゾンビなのです。これはもしやストレス社会に生きる人間への戒めのために生まれた映画なのでは?
なんにせよ冒頭から危険な匂いがプンプンする描写に目を奪われ、気づけば終点まで安心できないジェットコースターに乗せられてしまったような感覚を味わえるハイパーホラーアクションなので、心して観てほしいものです。
心に刺さる1本を見つけよう!「TAIWAN MOVIE WEEK(台湾映像週間)」特集
「TAIWAN MOVIE WEEK(台湾映像週間)」
開催日程:10月13日(金)~28日(土)
開催場所:ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場
ところざわサクラタウン ジャパンパビリオンホールB
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