サイコ野郎からケチな小悪党まで変幻自在!キャリアと共に振り返るハリウッド随一の“イイ顔”俳優、レイ・リオッタの名演
昨年の5月に67歳という早すぎる死を迎えた名優レイ・リオッタ。そんな彼の出演作『コカイン・ベア』が現在公開されている。その一度見たら忘れられないような強すぎる顔とブチギレ芸を武器に、本作でも得意の悪党を演じているリオッタ。その輝かしいキャリアを名演と共に振り返っていきたい。
映画本格進出作『サムシング・ワイルド』のサイコ男でいきなりブレイク!
1970年代後半に俳優活動を開始し、テレビシリーズで経験を積むと、ジョナサン・デミ監督の『サムシング・ワイルド』(86)で本格的に映画の世界に足を踏み入れたリオッタ。エリート会社員が美女にナンパされたことから奇妙な体験をするという風変わりなコメディスリラーで、リオッタが演じたのはヒロインの元夫で粗暴な前科者という厭〜な役どころだ。
リオッタは大声で笑いながらも目の奥は決して笑っていない圧の強すぎる顔面でサイコ男を不気味に演じ、それまでどこかノホホンとすらしていた作品に不穏な空気と緊迫感をもたらしていく。物語のテイストを一転させる抜群の存在感で第44回ゴールデン・グローブ賞にもノミネートされ、一躍ブレイクを果たすことになった。
小物感あふれるマフィアの生涯を体現した『グッドフェローズ』
その後はサイコな印象が定着するのを避けるべく、『フィールド・オブ・ドリームス』(89)ではどこか物悲しい眼差しで実在の野球選手ジョー・ジャクソンに扮するなど多彩な役に挑んでいく。
そんなリオッタの代表作といえば、マフィアになることを夢見る少年がその夢を実現し、そして破滅していく…という実在の男の半生を映画化した『グッドフェローズ』(90)と言って異論はないだろう。
マーティン・スコセッシ監督に自分を売り込み、主人公のヘンリー役を手にしたというリオッタは、楽な仕事で大金を稼ぎたいという軽薄なヘンリーの人物像をへらへらした笑顔で表現。仲間のジョークに大爆笑する「ガハハハハハ」という甲高く下品な笑い声は一度耳にしたら離れないほどだ。
スリリングでイケイケなマフィアの日常を満喫する享楽的な人物像をゴージャスな“顔面”を生かして体現。その一方、ロバート・デニーロとジョー・ペシが演じたカリスマ悪党ジミーとトミーのやりすぎな行動にドン引きしたり、組織での立場が危うくなってたじろいだり…とヘンリーの拭いきれない“小物感”も引き出し、キャラクターに人間味をもたらした。
なお、このマフィアのイメージを生かして、ゲーム「グランド・セフト・オート・バイスシティ」では、イタリア系アメリカ人のチンピラ主人公トミー・ベルセッティの吹替えも担当している。
『コップランド』ではいいヤツに!グレーなキャラクターをやらせればピカイチ
“サイコ感”と“小悪党感”という両極端な魅力から放たれるグレーな雰囲気を纏うリオッタは、その後も犯罪ものを中心にキャリアを重ねていく。『不法侵入』(92)では、「いい人かと思っていたら実は暴力的な警官でした!」というサイコな悪役をグレーな魅力を生かして怪演。徐々に浮かび上がる本性が一気に突き抜ける様には戦慄してしまう。
さらに悪徳警官が牛耳る街を舞台にした『コップランド』(97)では、取り締まった麻薬で金儲けをするせこい男だが、根は善良な麻薬捜査官ゲイリーを熱演。自身は火事で恋人を失い自暴自棄になりつつも、友人の冴えない中年保安官フレディ(シルヴェスター・スタローン)を支える、キャリアでは珍しい“いいヤツ”として抜群の存在感を放った。
『コップランド』と同じくジェームズ・マンゴールド監督作『アイデンティティー』(03)では、土砂降りのモーテルに突如現れた凶悪犯を輸送中という怪しさムンムンの刑事を演じ、粗野な態度などなにか裏を感じさせる演技で作品に混乱をもたらした。
製作も務めた『NARC ナーク』(02)では、主人公と共に同僚刑事が殺害された事件を追う警部補役で出演。正義感ゆえに常にブチキレまくりながら犯罪者を次々と懲らしめていく、捉え方によっては悪人とも取れない善悪の境界線上に立つキャラクターを、物悲しい背景と共に深みたっぷりに演じて見せた。