『沈黙の艦隊』の舞台裏を徹底解剖!臨場感たっぷりの潜水艦はどのように作られたのか?
ハリウッドレベルの機材で、力強い映像体験を実現!
次なる課題として浮かびあがったのは、光や空間の広がりがまったく異なる多様な舞台をどのように効果的にカメラに捉え、ハイスペックな映像体験を実現していくかという点。その課題もまた、実力派スタッフの力量によって軽やかにクリアされた。
「小宮山さんが、世界でリリースされたばかりのすばらしいカメラを用意してくれました」と、松橋プロデューサーは『夏への扉 ーキミのいる未来へー』(21)などでタッグを組んだ撮影監督の小宮山充の名前を挙げる。その「ALEXA35」という最新型カメラは、フィルムのような諧調表現とリッチな色再現を可能にし、ハイライトと暗部の表現を最大限に発揮するもの。カメラテストをしてみたところ、本作との相性は抜群だったという。
さらにレンズには、ライカのシネレンズを扱う最高峰ブランドであるLeitz社のものを採用。“やまと”と“たつなみ”やそれ以外の舞台で、異なる2つのモデルを使い分けた。「ALEXA35とLeitzレンズを組み合わせた映画撮影は、公表されている限りは世界初の試みとなるはずです。ハリウッド作品にもまったく引けを取らない機材群で、小宮山さんは水浸しのセットだろうが潜航中の潜水艦だろうが、持ち前の技術と笑顔と忍耐力で力強い映像を取り切ってくれました」。
『君の名は。』のCGクリエイターだった吉野監督が考えた、重厚感を生む方法とは
潜水艦シーンの撮影では、浮遊感や傾きを作りだすためにセット自体をクレーンで吊るす方法が取られ、それが可能な天井の高さと広さを有する千葉県の巨大な倉庫がスタジオとして使用された。また、防衛省や自衛隊の協力のもと、全国各地でロケ撮影も実施。日本映画としては初めてとなる、実物の潜水艦を使用した撮影も実現された。
リアルな艦体と現代のVFX技術との融合によって臨場感あふれる映像が生みだされたのだが、光のない水中と凹凸の少ない潜水艦のCG表現はどうしても難易度が高い。そこで、かつて新海誠監督の『君の名は。』(16)でCGクリエイターとして参加した経験もある吉野監督が考えたのは、マリンスノー(空中浮遊物)を配置した表現だった。浮遊物があることで潜水艦の動きや重みも表現でき、同時に神秘的なイメージを生むことができる。
「マリンスノーが雪みたいに降っているなか、しずしずと真っ黒い物体がやってくるイメージが最初に浮かんできました。これは“死の灰”に繋がる核を積んだ潜水艦の表現としてふさわしいのではないかと感じました」と吉野監督は語る。さらに潜水艦全体を捉えたショットでは、原作の重厚感あるアングルを参考にしながら再現。その結果、原作ファンのみならず映画ファンも納得できる画面づくりが叶った。
こうして様々なアイデアとスタッフ陣のこだわりが発揮されて出来上がった、リアルでハイクオリティな世界観。本作では、ほかにも“禁断のテーマ”といわれた挑戦的なストーリーから俳優たちの熱い演技、さらに音の表現にいたるまで注目すべきポイントがぎっしりと詰め込まれている。是非とも劇場の大スクリーンで、その圧倒的な完成度を目撃してほしい!
文/久保田 和馬