大型作品の日本ロケを誘致するには?東京国際映画祭のセミナーで海外のプロデューサーらが語った”4か条”
明らかになった課題、目指すべきは「撮影フレンドリーな環境」
「撮影フレンドリーな環境」という意味では、国内に300件以上のフィルムコミッションがある日本は“撮影大国”と呼べるかもしれない。300件のうち130件あまりを束ねる関根氏に対し、「それらの300件の連携は?」といった質問が寄せられ、ホープ氏は「量より質だと思います。区役所の撮影許可担当者がすぐにほかの部署に異動になってしまうということもよくありました」と疑問を呈した。関根氏は、「各市町村では複数の職務を1人で担っていたり、撮影隊が来るからとフィルムコミッション担当を立てることもあります」と説明するが、百戦錬磨の海外プロデューサーたちはなかなか引き下がらない。議論が平行線になるのは、彼らが抱くインセンティブプログラムの申請、施行などの疑問点は政府の管轄であり、フィルムコミッションの権限で善処できるものではないから。こういった日本行政の“わかりにくさ”は、撮影フレンドリーな環境とは言い難い。
各国の撮影誘致政策に詳しいリチャーズ氏は、「撮影フレンドリーな環境とは、あらゆる種類の公的機関が制作やポストプロダクションを奨励してくれること。そして、映像制作に若い人が参入できるよう奨励することです。映画制作はすばらしい経験になります。私はよく若い人に『プロダクションアカウント(制作経理)を目指しなさい』と言うんです。なぜなら、そのスキルがあれば、映画の撮影と共に世界中を旅して、すばらしい人生を送ることができるからです。下積み時代のスキルは非常に貴重です。だから、若い人たちがこの業界を目指してくれるよう、万全な体制で受け入れる環境をつくることが大切なのです」と述べ、「実験的インセンティブプログラムから恒久的なプログラムに移行しようとしている日本政府に感謝したい。次の一歩を踏み出したことに拍手を送ります」と白熱したパネルディスカッションをまとめていた。
このセミナー、特にパネルディスカッションで明らかになったのは、映像作品のロケ誘致は輸出に相当する経済政策であるということ。Netflixのリチャーズ氏が言うように、ロケ誘致に不可欠な4か条の「スタッフの能力」「撮影インフラの整備」「撮影フレンドリーな環境」、そして「魅力的なインセンティブ」は、ビジネスとして世界のコンテンツ市場を取りに行くための下準備である。日本ではまだロケ誘致について観光客を呼び込むロケツーリズムやインバウンド需要促進としか考えていない節があるが、諸外国は輸出産業の一角として位置付けている。その先には、カナダの例に挙げたような人材育成、そして日本の映像制作の底上げといった効果も期待できる。東京国際映画祭でこのようなセミナーが行われ活発な議論が展開されたことにより、始まったばかりの日本のロケ誘致とインセンティブプログラムがさらに進化していくことを望みたい。
取材・文/平井伊都子