『スマホを落としただけなのに』『護られなかった者たちへ』『怪物の木こり』…「このミス」大賞シリーズの衝撃作の映画化はすごかった! - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『スマホを落としただけなのに』『護られなかった者たちへ』『怪物の木こり』…「このミス」大賞シリーズの衝撃作の映画化はすごかった!

コラム

『スマホを落としただけなのに』『護られなかった者たちへ』『怪物の木こり』…「このミス」大賞シリーズの衝撃作の映画化はすごかった!

火事を生き延びた少女が夢を叶えようとする『さよならドビュッシー』

不吉な出来事に見舞われながらもピアニストを目指す少女の再生の物語『さよならドビュッシー』
不吉な出来事に見舞われながらもピアニストを目指す少女の再生の物語『さよならドビュッシー』[C]2013さよならドビュッシー製作委員会

第8回大賞受賞作「さよならドビュッシー」は、火事でひとり生き残った少女の周囲で事件が続発していく物語。作者は中山七里で、本作と共に「連続殺人鬼カエル男(応募題:災厄の季節)」が同時に最終選考までエントリーされ話題になった。

なに不自由なく暮らしていたピアニスト志望の高校生、遥(橋本愛)は、ある晩、祖父の香月玄太郎(ミッキー・カーチス)やいとこのルシア(相楽樹)と共に火事に巻き込まれてしまう。一人生き残った彼女は全身に火傷を負い、声は出せず、体も満足に動かせなくなる。手術で元の姿を取り戻した彼女は、ピアニストになる夢を諦めず、ピアノ教師、岬洋介(清塚信也)のもと猛特訓を開始。コンクールへの出場権を手にするが、何者かに命を狙われる。玄太郎の死で莫大な遺産を相続することになった香月家の人々。様々な問題を抱えた家族の確執だけでなく、火事にまつわる真実が明かされていく怒濤の展開をみせる本格ミステリーで、橋本愛の熱演や、これが俳優デビューとなったピアニスト清塚信也の鍵盤さばきも見どころだ。

凄惨な殺人事件に隠された真実とは『護られなかった者たちへ』

「このミス」選出作ではないものの、「さよならドビュッシー」で大賞に輝いた中山七理の作品も抑えたい。怒涛の展開を見せる作風により「どんでん返しの帝王」と呼ばれる中山の小説「護られなかった者たちへ」を原作とする、生活保護の実態に迫った社会派ミステリー映画も話題となった。

東日本大震災から9年後の仙台で、連続“餓死“殺人事件が発生。被害者はいずれも周囲から悪い噂を聞かない男たち。警察の捜査線上に浮かび上がったのは、模範囚として出所したばかりの利根泰久(佐藤健)だった。事件を追う宮城県警捜査一課の笘篠誠一郎(阿部寛)は、利根と今回の事件の接点を突き止めるも、犯行の証拠を掴むことができずにいた。日本が抱える社会問題に大きく切り込んだ本作が浮き彫りにするのは、生活苦にあえぐ人々たちを待ち受ける現実。そんな本作に込められたメッセージを、佐藤、阿部を始めとする豪華キャスト陣が魂のこもった演技によって表現した。

現代に欠かせないスマホに潜む闇『スマホを落としただけなのに』

正体不明の男に狙われた女性に訪れる恐怖を描く『スマホを落としただけなのに』
正体不明の男に狙われた女性に訪れる恐怖を描く『スマホを落としただけなのに』[c]2018 映画「スマホを落としただけなのに」製作委員会

「このミス」では大賞のほか将来性を感じさせる作品に与える「隠し玉」も発表される。第15回の隠し玉作品に選ばれたのが、スマホを落としたカップルの恐怖を描いた「スマホを落しただけなのに」。本作でデビューした志駕晃は、ラジオプロデューサー勅使川原昭のペンネーム。本作以外にもSNSの恐怖を描いた「そしてあなたも騙される」などネットを題材にした作品を発表している。

麻美(北川景子)が恋人の富田(田中圭)に電話をすると、出たのは見知らぬ男。その人物は富田のスマホを拾ったのだと言う。スマホはカフェに預けられ無事富田のもとに戻ったが、それ以来何者かによる麻美への執拗なストーキングがはじまった。クレジットカードの不正使用や行動監視など、スマホが日常生活に欠かせない存在の現代ならではの恐怖を描いた本作。監督は「リング」シリーズの中田秀夫が手掛け、日常が少しずつ狂い始める様がリアルなタッチで描かれる。千葉雄大や成田凌ほか、共演陣も当時の若手実力派が集結した。犯人が狙うのは長い髪の女性ばかり。白石麻衣を主演にした続編『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』(20)も製作された。

サイコパスと連続殺人鬼の戦いが始まる『怪物の木こり』

怪物の木こりに扮した殺人鬼が二宮を狙う(『怪物の木こり』)
怪物の木こりに扮した殺人鬼が二宮を狙う(『怪物の木こり』)[c]2023「怪物の木こり」製作委員会

第17回大賞に輝いた「怪物の木こり」は、倉井眉介の作家デビュー作。他人に共感できないサイコパスが、連続殺人鬼に対峙する異色作だ。苦悩する殺人鬼を描いたドラマ「デクスター」が執筆のヒントになったと作者が語っているように、ミステリアスな展開はもちろん、主人公、二宮の複雑な内面描写も見どころになっている。

三池崇史監督によって映画化されることとなった本作。人間の脳を奪い去る連続猟奇殺人事件が発生。犠牲者にはなんの接点もなかった。新たな標的にされたのは弁護士の二宮(亀梨)。ところが彼は、邪魔者は容赦なく始末するサイコパスという裏の顔を持っていた。捜査のなかで二宮に不信感を抱いた警視庁の戸城(菜々緒)は、二宮の周辺調査も開始。サイコパスと連続殺人鬼の戦いに、さらに警察まで加わって三つ巴の争いを繰り広げる本作は、二転三転していく展開と、アクの強いキャラクターが織りなす人間模様でぐいぐい引っ張る三池監督らしいパワフルな一本。冷徹ななかに感情をにじませる亀梨和也、執着心の強いプロファイラーを演じた菜々緒の演技バトルも見応えあり。原作とはまた違うラストが余韻を残す、ワザありの超刺激サスペンスである。

ミステリーファンを唸らせた「このミス」大賞シリーズを原作とする映画は、どれも緻密に練られた粒ぞろいの作品ばかり。そして、サイコパスvs連続殺人鬼という異色の攻防を描く『怪物の木こり』は、その「このミス」実写化の系譜をしっかりと受け継いだ衝撃作に仕上がっている。多くの話題を集めた原作を、三池監督と主演の亀梨はどのように再現したのだろうか?公開を間近に控えた本作に期待が高まる。


文/神武団四郎

※記事初出時、作品名の表記に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

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