信長に反旗を翻し、一族郎党皆殺しにあった愚将…『首』の最重要人物、荒木村重とは?

コラム

信長に反旗を翻し、一族郎党皆殺しにあった愚将…『首』の最重要人物、荒木村重とは?

本能寺の変に村重&光秀のただならぬ関係があった!?という解釈が軸の『首』

』では、そんな嫌われ者の荒木村重が北野監督ならではのユニークな視点で描かれていて目をみはる。映画は川に浮かぶ村重軍の侍の死体の斬られた首から赤いカニが出てくるところから始まり、その冒頭の一連で有岡城の落城後に主が姿を消したことを一気に伝える。だが、彼は本当に一人だけ戦場から逃げだした人でなしだったのだろうか?いやいや、そんなことはなかったんじゃないの?といった感じで、まことしやかに語られている歴史に異を唱えるところが北野監督らしい。

映画をこれから観る人たちの楽しみを奪うことになるので詳しく書くことは避けるが、北野監督は、家臣の村重と明智光秀に対して特別な想いを抱いていた信長が、村重と光秀が知られざる禁断の関係にあることを察知して嫉妬。光秀と村重に必要以上に暴力を振るったことから、村重が信長に反旗を翻したのではないか?謀反を起こした村重は自ら戦場を離れたのではなく、何者かの手によって捕らえられ、光秀が匿うことになったのではないか?という自身が信じる説を『首』のベースにしていった。そこから、あの「本能寺の変」(天正10年/1582年6月21日)へと突き進む、信長と光秀、村重の運命をめぐる壮絶な愛憎劇へと着地させたのだ。

姿を消した村重の行方について、光秀を問い詰める信長
姿を消した村重の行方について、光秀を問い詰める信長[c]2023 KADOKAWA [c]T.N GON Co.,Ltd.

村重、光秀へのバイオレンスがハンパない信長の狂気…


しかも、村重が仕えていた主君に牙を剥くほどのひどい仕打ち、暴力に説得力を持たせ、観る者が共感できるように、北野監督は手加減なしのバイオレンス描写を徹底!狂気の天下人になりきった加瀬亮が、コテコテの尾張弁で光秀役の西島秀俊や村重役の遠藤を罵倒し、西島を容赦なく蹴り倒すから、観ているだけで背筋が凍り、怒りがどんどん込み上げてくる。

刀に刺した饅頭を村重に食わせる信長(加瀬)…。その狂気の笑みに戦慄させられる
刀に刺した饅頭を村重に食わせる信長(加瀬)…。その狂気の笑みに戦慄させられる[c]2023 KADOKAWA [c]T.N GON Co.,Ltd.

「絵本太閤記」にもその光景が残されている、信長が刀に刺した饅頭を村重が平然と食べたという有名な逸話も、村重の豪傑さを伝えるようなこれまでの描写とは異なり、信長の狂った愛と残虐性を強調する恐ろしいものになっていて見逃せない。

果たして、『首』の荒木村重はどんな末路をたどるのか?明智光秀の運命は?北野監督が考える本能寺の変の真実が、嫌われ者の戦国武将の新たな一面を浮かび上がらせる。ああ、その可能性もあったかもれしない。自然にそう思える本作を観て、初めて知る村重に想いを馳せてみてはいかがだろうか?その行為は、歴史好きにはたまらない至福の時間になるはずだ。

文/イソガイマサト

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