ポール・キング監督、ヒュー・グラントへのウンパルンパ役オファーは短文メールで。「すぐに『了解』と返信が来た」
「特定のカラーを際立たせることは、観客の感受性を刺激する大きな武器になる」
この『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は、とにかくカラフルな映像が魅力で、観ているこちらは魔法にかけられた気分になっていく。こうした色使いにキングの特徴が表れているような気もする。
「映画の中で特定のカラーを際立たせることは、観客の感受性を刺激する大きな武器になります。監督によっては、そこまでカラーを意識せず、単にパレットから絵の具を選ぶ感覚の人も多いでしょう。でも私にとってカラーは“暗号”のようなもの。『シェルブールの雨傘』が大好きなのは、主人公たちの関係が衣装やセットの色使いで表現されているからです。黄色のカーディガンや青いスカーフによって、観客が気づかないところでストーリーを伝えます。そのようにカラーを正しく、綿密に使うことが大切なのです」。
さらに細部にもポール・キングのこだわりがあふれている。なかでもウォンカが自身の故郷から“チョコレートの町”へ運んできたトランクに注目だ。それはチョコレートの“ポータブル工場”。フタを開けると材料や道具が並び、どこにいてもチョコレートを作ることが可能。このポータブル工場はマニアックな心を刺激する。
「私はミニチュアの世界が大好き。あの小さな“工場”の箱はCGではなく小道具のスタッフと共に何か月もかけて作り上げました。有能なスタッフの技術の賜物です。私が愛するミュートスコープ(19世紀の映画の装置)も、箱の中で使いました。もちろん実際にチョコレートを作るのは不可能ですが(笑)、本当にすばらしい装置が完成したと満足しています。とかく映画はスケール感や壮大なアドベンチャーを求めがちですが、注意して確認できる細部に大きなパワーが宿っていることもあるのです」。
「今回のウォンカは20代、時代はミュージカル映画の黄金期の1940年代に相当」
本作が観る者のテンションを高めるのは、要所のミュージカルシーンだが、なぜ歌とダンスを盛り込んだのか?キング監督には、一つの理由があった。
「ウィリー・ウォンカの最初の映画化は1971年でした(『夢のチョコレート工場』)。1971年当時のウォンカから逆算すると、今回のウォンカは20代なので時代は1940年代に相当します。当時、ハリウッドはミュージカル映画の黄金期でした。私自身もMGMミュージカルの大ファンなので、光に向かう蛾のように、このアイデアに吸い寄せらたのです(笑)。『レ・ミゼラブル』などが時代を超えて受け継がれるように、私は40年代のミュージカルの精神を広く知らしめたくなりました。そこで『ヘイル、シーザー!』で当時のダンスを再現した偉大な振付師のクリストファー・ガテリに協力を依頼し、本格的なミュージカル演出に挑んだのです」。
ポール・キング監督には今後、ミュージカル黄金期の大スター、フレッド・アステアの人生を描く作品も予定されているが、それについては「まだ声をかけられているだけの状況で、脚本も仕上がっておらず、どうなるかわかりません」と語りつつ、意欲は満々のようだった。
最後に『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』を、日本の観客にどう受け止めてほしいか、キング監督からメッセージをもらった。
「先日、この映画を観た方からステキなコメントをいただきました。『これはいまだからこそ、観るべき作品だ』というものです。世界中が多くの困難や不安で満ちあふれている現在、本作が映画館で人と人の心を結びつける役割を果たしてくれることを心から願っています」。
この言葉どおり、若き日のウィリー・ウォンカの運命は、映画という枠を超えて、あらゆる人に勇気と優しさを与えてくれるはずだ。
取材・文/斉藤博昭