危険で魅惑的な娼館の世界へ女性小説家が潜入…映画『ラ・メゾン 小説家と娼婦』が描く“彼女たちが娼婦になった理由”

コラム

危険で魅惑的な娼館の世界へ女性小説家が潜入…映画『ラ・メゾン 小説家と娼婦』が描く“彼女たちが娼婦になった理由”

同じ境遇を介した女たちの緩やかでかけがえのないつながり

 個性的な女性たちが集う、娼館ラ・メゾン
個性的な女性たちが集う、娼館ラ・メゾン[c] RADAR FILMS - REZO PRODUCTIONS - UMEDIA - CARL HIRSCHMANN - STELLA MARIS PICTURES

娼館のラ・メゾンには、個性的な女性たちが集う。例えばスペインの巨匠ペドロ・アルモドバル作品でもお馴染みの役者であるロッシ・デ・パルマをはじめ、年齢層も幅広い。劇中のエマは27歳だが、演じているアナ・ジラルドは1988年生まれの俳優で現在35歳。このテーマの映画が若さに高い価値を置くここ日本で映画化されていたとしたら、もっと主人公の年齢層は低かったかもしれない。ほかにも常にカツラを被るSM女王、ウブな印象の女性などそこにいるセックスワーカーたちはバラエティに富んでいる。映画では客を相手にする場面も確かに多いが、個人個人で携帯電話を見つめている無音に浸された娼館のルーセルとは対照的な、ロッシ・デ・パルマが手料理を振る舞いながら女性たちが思い思いに会話を交わすラ・メゾンの温かな待機部屋の場面こそを、本作は愛情深く描く。エマは同僚の女性たちを執筆のために観察対象にもしていながら、同時に慈しみの感情を抱いているようにも見える。そこには、同じ境遇を介した女たちの緩やかでかけがえのないつながりがある。

執筆のため同僚を観察していたエマだったが…
執筆のため同僚を観察していたエマだったが…[c] RADAR FILMS - REZO PRODUCTIONS - UMEDIA - CARL HIRSCHMANN - STELLA MARIS PICTURES

もともと2週間のみの予定だった取材は、2年もの月日となった。エマにとって夜の世界はそれほどに引力があったのだろう。映画はコインランドリーでぐるぐると回る洗濯機に飲み込まれてゆくように、娼館での仕事にのめり込むエマを映しだす。ボンヌフォン監督は観客の代弁者として、原作にはいなかったエマの妹をこの映画のために創作した。妹は姉がセックスワークの仕事をすることに懸念を露わにし、そこには取材目的以外の欲望があるのではないかと投げかける。実際、エマの動機は1つではなく、欲望は娼館で過ごすにつれて、どんどん枝分かれてしてゆくようでもある。劇中のエマがどう仕事と関わっているかをつぶさに見ていれば、恐らくそれはある種本質を突いているように思えてくるだろう。

 予定していた取材期間を越えてもラ・メゾンで働き続けるエマ
予定していた取材期間を越えてもラ・メゾンで働き続けるエマ[c] RADAR FILMS - REZO PRODUCTIONS - UMEDIA - CARL HIRSCHMANN - STELLA MARIS PICTURES