ケネディ大統領は“なぜ”殺されたのか?暗殺事件の真実に迫る執念と隠された巨大な陰謀

コラム

ケネディ大統領は“なぜ”殺されたのか?暗殺事件の真実に迫る執念と隠された巨大な陰謀

事件から60年を経てもなお、議論の的になっている「ケネディ大統領暗殺事件」。独自の調査に基づき暗殺事件の真相に迫るドキュメンタリー『JFK/新証言 知られざる陰謀【劇場版】』(21)がAmazon Prime Videoチャンネル「スターチャンネルEX」で独占配信中だ。

JFK』(91)でこのセンセーショナルな事件を骨太なエンタテインメントとして描いたオリヴァー・ストーン監督が、“真実”が解明されないまま年月が過ぎていくことに不満を募らせ、再びこの題材に挑んだ本作。本稿では、事件の基礎知識や歴史的な重大性から、1991年に『JFK』が呼び起こした反響、そして劇映画からドキュメンタリーへと手法に変えて事件を追求するストーン監督の執念や本作の見どころなどを解説していく。

いまも陰謀論が都市伝説的に広がる、ケネディ大統領暗殺事件とは

いまなお“20世紀最大のミステリー”と語り継がれる大事件は、現地時間1963年11月22日に米テキサス州ダラスで発生した。絶大な国民的人気を誇った第35代合衆国大統領ジョン・F・ケネディが、大勢の市民の歓迎を受けているパレードのさなかに白昼堂々と暗殺されてしまったのだ。それはケネディが1961年1月に大統領に就任してから、わずか2年10か月後の悲劇だった。

現職の大統領暗殺は、1901年のウィリアム・マッキンリー以来62年ぶりの出来事であった
現職の大統領暗殺は、1901年のウィリアム・マッキンリー以来62年ぶりの出来事であったPhoto: John F. Kennedy Presidential Library, National Archives [c] 2021 Camelot Productions, Inc. All rights reserved.

世界中を震撼させたこの暗殺事件は、“その後”も異例の展開の連続だった。事件発生から約1時間後に犯人として逮捕された元海兵隊員リー・ハーヴェイ・オズワルドは、その2日後にダラス警察署から移送される途中、ナイトクラブのオーナーであるジャック・ルビーに銃撃されて死亡。翌年、ケネディの後を継いだリンドン・ジョンソン大統領が真相究明のために設置したウォーレン委員会は、犯行はオズワルドの単独によるもので、背後に陰謀の類いは存在しなかったと結論づけたが、あまりにも多くの不可解な謎が残されたため、21世紀のいまに至るまで数々の著作やドキュメンタリー、劇映画の題材になってきたことは周知の通りである。

暗殺事件の容疑で再逮捕されたオズワルドは、移送中に殺害されてしまう
暗殺事件の容疑で再逮捕されたオズワルドは、移送中に殺害されてしまうPhoto: John F. Kennedy Presidential Library, National Archives [c] 2021 Camelot Productions, Inc. All rights reserved.

果たして誰が、どのようにして、なぜケネディを暗殺したのか。長年にわたるその議論に一石を投じたのが、映画監督のオリヴァー・ストーンだった。ベトナム戦争に偵察隊員として従軍した自らの経験を生かした『プラトーン』(86)で脚光を浴び、米アカデミー賞で作品賞、監督賞をダブル受賞したストーン監督は、その後も『ウォール街』(87)、『トーク・レディオ』(88)、『7月4日に生まれて』(89)という社会派エンタテインメントの問題作を連打。そして1991年、ウォーレン委員会の報告に真っ向から異を唱えた大作『JFK』を発表し、破格の大反響を巻き起こした。


オリヴァー・ストーン監督が暗殺事件の謎に挑んだ問題作『JFK』

『JFK』の主人公は、ルイジアナ州ニューオーリンズに実在した地方検事ジム・ギャリソン。ウォーレン報告の内容に強い疑念を抱いたギャリソンが、数人の部下を率いてケネディ暗殺の捜査を行い、いくつもの謎を検証していく様を緊迫感たっぷりに描いた。当時『アンタッチャブル』(87)、『フィールド・オブ・ドリームス』(89)、『ダンス・オブ・ウルブズ』(90)などの話題作を相次いで世に送り出し、ハリウッドの頂点にのぼりつめたケヴィン・コスナーが、国を憂う検事としての使命感に燃えるギャリソンを熱演。脇役にもトミー・リー・ジョーンズ、ゲイリー・オールドマン、ケヴィン・ベーコンらのそうそうたる強力なキャストが配され、ロバート・リチャードソン(撮影監督)、ジョン・ウィリアムズ(音楽)らのスタッフも確かな仕事ぶりでストーン監督を盛り立てた。

劇映画として「ケネディ大統領暗殺事件」に迫った『JFK』
劇映画として「ケネディ大統領暗殺事件」に迫った『JFK』[c]EVERETT/AFLO

ギャリソンの回想録を含む複数の原作に基づく『JFK』は、いわゆる実録ドラマであると同時に、ストーン監督が独自の推論を盛り込んだフィクショナルなミステリー映画でもあった。何人もの怪しげな人物がばっこする複雑怪奇な事件の表と裏を、フラッシュバックを多用して紡ぎ上げたその作風は、ドキュメンタリータッチとフィルムノワール調の様式が見事に融合され、ひとときも目が離せないほどの濃密な仕上がり。とりわけ実業家クレー・ショーの裁判が行われるクライマックスでは、法廷でギャリソンが主張する暗殺の“真実”がダイナミックに映像化され、圧倒的なスリルとカタルシスを呼び起こした。かくしてセンセーショナルな政治性と陰謀ミステリーとしての高度な娯楽性が渾然一体となった『JFK』は、米アカデミー賞で8部門にノミネートされ、2部門受賞(撮影賞、編集賞)を達成。3時間超の大長編でありながら、日本でも1992年における洋画年間興収4位にランクインする大ヒットを記録した。

『JFK』から30年の時を経て、ドキュメンタリーという形で再びこの題材に挑んだストーン監督
『JFK』から30年の時を経て、ドキュメンタリーという形で再びこの題材に挑んだストーン監督Photo: John F. Kennedy Presidential Library, National Archives [c] 2021 Camelot Productions, Inc. All rights reserved.

ケネディ暗殺の痛ましい歴史的記憶をアメリカ社会に呼び覚ました『JFK』の影響は政治をも動かし、全米公開翌年の1992年、アメリカ議会は「ジョン・F・ケネディ大統領暗殺記録収集法」を可決。それによって数百万ページにおよぶ機密文書が開示され、民間団体や研究者による事件の新たな検証が行われるようになった。しかしメディアなどの動きは鈍く、真実は未だ藪の中。そこで再び立ち上がったのがストーン監督である。『ワールド・トレード・センター』(06)、『スノーデン』(16)のプロデューサー、ロブ・ウィルソンとタッグを組み、『JFK/新証言 知られざる陰謀【劇場版】』を完成させたのだ。

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