ケネディ大統領は“なぜ”殺されたのか?暗殺事件の真実に迫る執念と隠された巨大な陰謀
1発の銃弾がありえない軌道で体を撃ち抜いた“魔法の弾丸”
『JFK』はあくまで“史実に基づくフィクション”だったが、『JFK/新証言』は純然たるドキュメンタリーだ。ケネディが平和の尊さをスピーチする記録映像で幕を開ける本作は、冒頭の10分弱で1963年11月22日の暗殺事件当日と、その後の数日間に起こった一連の衝撃的な出来事をシャープな編集で映し出す。続いて画面は55年後、2018年のテキサスに切り替わり、ストーン監督が犯行現場となったダラスのディーリー広場を訪問。『JFK』公開後に開示された膨大な機密資料や多くの専門家へのインタビューを通して、観る者をケネディ暗殺の驚くべき真相/深層へと誘っていくという構成になっている。
劇中にはいくつもの解明すべきミステリーの論点が含まれているが、真っ先に検証されるのは有名な「証拠物件399」こと“魔法の弾丸”に関する謎だ。ウォーレン委員会の報告は、テキサス教科書倉庫ビルの6階に身を潜めたオズワルドが、ライフルで3発の銃弾を発射したと結論づけた。ところがこの見立てでは、3発のうち1発がオープンカーの後部座席にいたケネディとその前方に座るテキサス州知事ジョン・コナリーの体を撃ち抜き、物理的にありえないような軌道を描いて2人に7つもの傷を与えたことになる。本作では『JFK』でも言及されていたこの謎についてより詳細な検証を試み、ケネディの搬送先であるパークランド病院で発見された“魔法の弾丸”が、証拠として保全されるまでの奇妙な経緯や矛盾も指摘している。
さらに、ベセスダ海軍病院における検視で撮影されたケネディの遺体写真、パークランド病院で処置にあたった医師らの証言も細かに検証する本作は、何者かによって入念に準備されたであろう複数犯による狙撃説はもはや突飛な仮説ではなく、それこそがまぎれもない事実だと主張する。むろん、それが真実かどうかは受け手である観客の解釈に委ねられるが、自らインタビュアーを務めたストーン監督の並々ならぬ執念、ケネディ研究に携わってきた法病理学者、歴史学者、作家らの細部に踏み込んだ証言の数々は、極上のクライム・ミステリーさながらの迫真性をみなぎらせている。劇中にはそのほかにも、犯人に“仕立てられた”オズワルドの背景にまつわる幾多の謎や、なぜかウォーレン委員会で黙殺された目撃者らの重要証言など、興味をそそる論点がぎっしりと詰め込まれている。
巨大な陰謀の黒幕は…ケネディ大統領暗殺の“真実”に迫る
そして終盤では、ケネディは“なぜ”殺されたのか、という事件の核心的な謎に焦点が当てられていく。43歳の若さで大統領に就任したケネディは、前政権とはまったく異なる外交政策を打ち出した。東西冷戦下におけるキューバやソ連への対応、ベトナム戦争からの撤退をめぐってCIAと対立したケネディは、当時のCIA長官アラン・ダレスらを解任し、予算の削減にも踏みきった。そんな根深い因縁あるダレスが、後にウォーレン委員会のメンバーに名を連ねたのは、身内であるCIAに調査をおよぶのを阻むためではなかったのか。ケネディの政策によって不利益を被る軍や情報機関などの闇の勢力こそが、巨大な陰謀の黒幕なのではないのか…。『JFK』を鑑賞済みの人も、本作で初めてケネディ暗殺のミステリーに触れる人も、“知られざる陰謀”を多角的に掘り起こし、果敢な謎解きに挑んだ映像世界に引き込まれずにはいられないだろう。
また、本作は自由と変革の象徴だった政治家ケネディの功績を再評価し、彼の死がその後のアメリカと国際社会にもたらした負の影響も伝える。ストーン監督が放ったこの渾身のドキュメンタリーは、SNSに無数のフェイクニュースが飛び交い、混迷深まる不穏な現代を生きる私たち観客に“真実”を追求し続けることの意義を問いかけているのだ。
文/高橋諭治
「BS10 スターチャンネル」にて独占プレミア放送
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