2023年にハリウッドで起きたダブルストライキとはなんだったのか…その意義と映画界への余波
『デューン』や『デッドプール』も。ストライキの影響で公開延期となった映画たち
主演俳優による映画のプロモーションが期待できないため、大作映画の公開延期も相次いだ。『デューン 砂の惑星 PART2』(2024年3月15日日本公開)の公開は11月3日から2024年3月1日に延期、ヴェネチア国際映画祭のオープニング作品に決定していたゼンデイヤ主演の『Challengers』は9月15日の公開日を2024年4月26日に延期、『デッドプール3(仮題)』や『Wicked』など、撮影半ばでストに突入した作品の公開延期も続出。
AMPTPに属さないインディペンデント系制作会社(A24、米国外作品など)はSAG-AFTRAとの暫定合意を以て俳優もプロモーション活動に参加できたため、ヴェネチア国際映画祭では『Ferrari』主演のアダム・ドライバー、ソフィア・コッポラ監督の『Priscilla』(2024年4月日本公開)のケイリー・スピーニーやジェイコブ・エロルディ、トロント国際映画祭では『Dream Scenario』に主演したニコラス・ケイジなどが参加している。
ストライキだけが原因じゃない?雇用縮小傾向に見るいまのハリウッド
2007年11月から2008年2月まで続いたWGAのストの際に、スタジオは人員を一時解雇し、ロサンゼルス経済圏全体での経済損失は30億ドル以上にも及んだと言われている。今回のWストライキは規模も期間も長いこと、この15年間のインフレ率も考慮すると、カリフォルニア州および撮影拠点として多くのロケを支えるジョージア州、ニューメキシコ州の経済的打撃は60億ドル(約8560億円)との見方もある。
だが、ロサンゼルス・タイムズ紙は、ハリウッドの雇用縮小傾向はストライキだけが理由ではないとしている。地元の芸術系大学とリサーチ会社の調査によると、2023年5月以降、ロサンゼルスのエンタテインメント業界の雇用は17%減となり、内訳は俳優、脚本家が最も減り、撮影監督、編集、音響、照明技師、その他役職の雇用も減っている。2023年7月から9月の3か月間のドラマシリーズ制作本数は、前年比マイナス100%。長編映画制作はマイナス55%となっている。ところが、ストライキの最中にも監督やプロデューサー、エージェント、マネージャーなどの管理系職種の雇用は増加しているという。これは脚本家や俳優がストライキ中に監督やプロデューサー業に乗りだし、仕事の範囲が広がったからではないかと見られている。
また、俳優がカメラの前に立てない期間、VFXやアニメーションを手掛けるアーティストの仕事が増えたという調査結果もある。スタジオ各社は雇用や制作予算を削減し、以前からローカルコンテンツに着目していたNetflixはアメリカ国外での制作を拡大している。先駆者Netflixに続けと制作本数を増やした結果、多くのストリーミングサービスは常態的に赤字を計上し、投資家はさらに保守的になった。つまり、ハリウッドにおける経済変動はストライキとパンデミックのみに起因するのではなく、ストリーミングサービス攻勢期を経て、スタジオや配信企業が累積赤字を克服すべく構造改革に乗りだしたからだという見方だ。