2023年にハリウッドで起きたダブルストライキとはなんだったのか…その意義と映画界への余波|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
2023年にハリウッドで起きたダブルストライキとはなんだったのか…その意義と映画界への余波

コラム

2023年にハリウッドで起きたダブルストライキとはなんだったのか…その意義と映画界への余波

2023年の映画業界を語る上で最も重要な事項である、WGA(全米脚本家協会)とSAG-AFTRA(全米映画俳優組合)の契約更改をめぐるストライキ。映画業界がダブルストライキに直面したのは1960年以降初めてのことだった。WGAは、大手スタジオからなるAMPTP(全米映画テレビ製作者協会)との間で報酬契約や保険・年金の拠出拡大、そしてAI利用をめぐる対策などを契約更改に際し求めていたが決裂し、5月から9月まで約5か月間のストが行われた。その後、交渉を続けた結果、上記の契約内容を盛り込んだ契約合意に達している。

名優、リチャード・ギアもストライキに参戦!
名優、リチャード・ギアもストライキに参戦![c]SPLASH/AFLO

一方のSAG-AFTRAもAMPTPとの交渉でWGA同様に契約更改を求めていたが合意に至らず、7月からハリウッドの歴史上最も長期にわたる約118日間にも及ぶストライキを行った。11月8日に双方が暫定合意に達すると、多くの映画業界関係者が住むロサンゼルス各地でスト終結の祝杯があげられた。12月5日にSAG-AFTRA組合員約16万人の投票が行われ、批准に向けた作業が行われている。この契約交渉でSAG-AFTRAは約10億ドル以上利益を拡大するという。フラン・ドレッシャー会長は、「AI技術に関する組合初の保護も獲得し、いまがSAG-AFTRAの黄金時代であり、かつてないほど強力になった」と述べている)。この契約は2023年11月9日に遡り批准され、2026年6月30日まで有効となる。つまり、2026年には次の契約更改が待っている…。

最大の争点となったのはAI技術を使った「デジタル・レプリカ」

【写真を見る】白いレースのミニワンピースに身を包み、ピケッティングに参加したフローレンス・ピュー
【写真を見る】白いレースのミニワンピースに身を包み、ピケッティングに参加したフローレンス・ピュー[c]SPLASH/AFLO

SAG-AFTRAが12月5日に公開した最終契約内容では、最大の争点となったAIついての項目に多くのページが割かれ、デジタル・レプリカ(AI技術によって、俳優の声や演技が変更されたり、俳優のコピーを生成し演技させること)の作成における合意や利用方法、報酬、レジデュアル(二次使用料の分配)など細かく規定が書かれている。デジタル・レプリカには肖像権が生じ、作成するための労働と、デジタル・レプリカが使われた映像の両方に報酬が発生するという考え方だ。また、配信作品の増大によりレジデュアルの計算方法が見直された。例えば2024年1月1日以降に初回配信される作品について、配信開始から90日間の視聴時間が配信サービス国内加入者の20%以上に相当する場合、成功報酬を支払うなどの文言が含まれている。先週、Netflixが創業以来初めて、2023年上半期に試聴された約1万8000作品の全世界試聴時間の公開を行ったのは、SAG-AFTRAとの契約内容を受けてのことだろう。


あらゆる活動がストップしたハリウッド

ダブルストライキが行われていた間、主にAMPTP所属各スタジオによる作品の制作が完全にストップした。まずは脚本家が執筆の手を止め、ネットワーク局の夜のトークショーやライブバラエティ番組が再放送番組に切り替わった。7月14日にSAG-AFTRAのストライキが始まると、映画やテレビシリーズの制作は即座に休止された。制作だけでなく、SAG-AFTRA会員はAMPTP各社製作の作品についての取材や映画祭参加、SNS投稿など作品のプロモーションも中止した。プレミアのレッドカーペットやインタビューに代わり、スター俳優たちがスタジオやテレビ局の前でピケッティング(ストライキ参加促進運動)を行う姿が報道されるようになった。

『クレイジー・リッチ!』などで知られるオークワフィナ
『クレイジー・リッチ!』などで知られるオークワフィナ[c]SPLASH/AFLO

ストライキ中に映画祭会期を迎えた第80回ヴェネチア国際映画祭、第48回トロント国際映画祭など、2024年のアカデミー賞まで連なるアワードシーズンの幕開けとなる映画祭でも、SAG-AFTRA会員の姿は見られなかった。9月に予定されていた第75回プライムタイム・エミー賞は、2024年1月15日に授賞式を延期した。

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