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『オッペンハイマー』クリストファー・ノーラン監督に『エブエブ』ダニエルズが直撃!「どうやってこの企画を売り込んだのでしょう?」

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『オッペンハイマー』クリストファー・ノーラン監督に『エブエブ』ダニエルズが直撃!「どうやってこの企画を売り込んだのでしょう?」

「我々はみなクリエイティブな存在。置き換わることはない」(ノーラン)

2024年に日本での公開が決定した『オッペンハイマー』
2024年に日本での公開が決定した『オッペンハイマー』[c]Universal Pictures. All Rights Reserved.

クワン「科学とテクノロジーについて、テクノロジーとあなたの個人的な関係についてお聞きします。あなたの作品の多くは、良いことも悪いことも含めテクノロジーの逆説的な性質について深く考察しています。そして、魔法と科学の境界線を曖昧にした『プレステージ』や、携帯電話を通じた監視のようなものを描いた『インターステラー』でも、あなたは明らかに先見の明があり、常に概況を把握していました。そしていま、人類がこれまで関わってきたテクノロジーの中で最大の神話のひとつである『オッペンハイマー』を作りました。私たちはどこへ行こうとしているのでしょうか?これは非常に大きな疑問です。あなたはこのことについて真剣に考えているでしょうし、また明らかに私たちの業界は、現在起きていることに夢中になっています」

ノーラン「ここ数ヶ月、AIについて質問を受けることがとても多かったんです。というのも、ちょうどこの映画が公開されるころ、Chat GPTがジャーナリズム界で大きな反響を呼んでいたからです。AIがニュース記事を書けるようになった途端、ジャーナリストたちにとって大きな問題となりました。長年にわたって人々が話題にし、警告しようとしてきたことが、突然メディアの関心の的となったのです。私はAI分野の第一人者たちに話を聞きましたが、多くの人々は『これは私たちにとっての“オッペンハイマーの瞬間”だ』と呼んでいました。彼らは往々にして、世の中に出回る新技術の危険性や予期せぬ結果について、なんらかの指針や明確さを物語に求めてくるものです。この映画を観たからといって、彼らの助けになるとはまったく思いませんが(笑)」

ダニエルズ「(爆笑)」

ノーラン「それでも、彼らがそのことを心配し考慮している事実に私は安心感を覚えました。ときどき、彼らは『私どものプロダクトはこうなっています、これはとても危険なプロダクトでもありますが』、というような昔ながらの売り込み文句で大見得を切っているのでは?と思います。そのやり方で確かに大金を稼いでいるでしょう。具体的な危険性は? 私たちはどこへ向かっているのでしょうか? つまり、AIという言葉が役に立たないというのが現実だと思います。AIとは包括的な言葉に過ぎません。機械学習が業界のほかの部分に及ぼす危険性とはまったく無関係な、あらゆる種類のテクノロジーでこの言葉が飛び交っているのですから。監督協会の会員で構成される私たちの組合は、労働交渉に際して非常に慎重な姿勢で一定の懸念を抱いています。

WGAは協定にすばらしい文言を盛り込みました。脚本家たちは、当然ながらこの協定に懸念を抱いています。最近、SAG(俳優組合)が契約を承認しました。批准されて、仕事を再開できることを非常にうれしく思っています。 そして、彼らには交渉のポイントがあり、ガードレール(AIが脚本家たちの仕事を侵害しないための保護)が始まります。しかし実際のところ、“ガードレール”という言葉の聞こえはいいですが、このテクノロジーでなにが行われるのかが本当にわかるまでは、法制化は難しいでしょう。AIは非常に広義で使われている言葉なので、それが我々の直面する問題となります。ロジャー・ペンローズのような人物の研究を見ると――『インセプション』で引用したペンローズの階段についてはご存知でしょうか?」

クワン「不可能の階段ですね」

 クリストファー・ノーラン監督とダニエルズによるQ&Aの様子
クリストファー・ノーラン監督とダニエルズによるQ&Aの様子

ノーラン「ペンローズは数学者ですが、物理学者や数学者が理解している数学には様々な分野があると指摘するでしょう。無限とは単純な概念ではありません。無限には境界があります。無限には様々な種類があります。このような高次の数学、高次のスケールのものごとには、人間なら難なくナビゲートできても機械にはできないパラドックスがあり、AIに携わる誰からも、そのような基本的なことが実際いかに克服されうるのか、正確にはまだ聞いたことがありません。例えば、右と左を区別する方法をどうやって教えるのか、誰もまだその答えを持っていません。私たちにとっては、とても単純なことですよね。だから、私はそのことに大きな安心感を抱いているし、そこには絶対に危険が潜んでいると思います。そして、人々がAIについて騒ぎ、規制を求めるのはとても正しいことだと思うし、シリコンバレーの『どうぞ規制してください』という戦略に屈するのではなく、規制すべきなのです。


我々は何年も何年もほかのテクノロジーでそれを見てきました。いま、AIでそれを目の当たりにしています。私は、人々がいま以上の規制を要求し、企業がその使い方を理解する義務を負うようになることを望んでいます。ただ私自身は、AIツールや機械学習があらゆる面で私たちを助けてくれるだろうと、実はとても楽観的に考えているのですが。そして、人間の創造性や創意工夫は、何者にも理解できないものだと思います」

シャイナート「僕はAIについては非常に悲観的です。だって、短い人生の残りの期間、サム・アルトマン(OpenAI社CEO)をつつき回したくもないですよね」

ノーラン「(笑)。あれは確かに、非営利団体であるOpenAIの理事会が彼を追い出し、出資者に無理やり復活させられたという感じはありましたね。あれが映画だったら、間違いなく世界が終わる瞬間です(笑)」

ダニエルズ・会場「(大爆笑)」

ノーラン「そう、終わりの始まりです。でも、私はとても楽観的なんですよ。さっきあなたがたは『オッペンハイマー』をどうユニバーサルに売り込んだのか?と聞きましたね。その答えがあるわけではないですが、AIのアルゴリズムでは、ユニバーサルがこの映画を作るべきだという予測を描くことはできないでしょう。それがなぜか私にもわかりません。わからないけれど、私は、我々はみなクリエイティブな存在で、世界になにかを提供し、それが価値あるものであると信じています。置き換わることはないのです」

会場「(拍手)」

取材・文/平井伊都子

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