『オッペンハイマー』クリストファー・ノーラン監督に『エブエブ』ダニエルズが直撃!「どうやってこの企画を売り込んだのでしょう?」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『オッペンハイマー』クリストファー・ノーラン監督に『エブエブ』ダニエルズが直撃!「どうやってこの企画を売り込んだのでしょう?」

イベント

『オッペンハイマー』クリストファー・ノーラン監督に『エブエブ』ダニエルズが直撃!「どうやってこの企画を売り込んだのでしょう?」

オッペンハイマー』が北米で公開されたのは7月21日。それから3週間、全米約400スクリーンでIMAX上映を行い、そのうち25劇場ではIMAXカメラの特性を最大限再現できる70ミリフィルムで上映された。今夏、PLF(プレミアム・ラージ・フォーマット)上映の恩恵を最も受けた映画と言えるだろう。11月には期間限定でIMAX再上映も行われ、賞レースのプロモーションに合わせてクリストファー・ノーラン監督やキャストが登壇するイベントも行われた。そのなかでも異色の組み合わせで注目を集め、大盛況だったのが“ダニエルズ”ことダニエル・クワンダニエル・シャイナートの2人組とのQ&Aだ。

 クリストファー・ノーラン監督とダニエルズによるQ&Aの様子
クリストファー・ノーラン監督とダニエルズによるQ&Aの様子

今年3月、第94回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞など最多7部門を受賞した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のダニエルズとノーラン監督との鼎談は、今年の映画界の顔が揃う特別な催しだった。ロサンゼルスのウエストハリウッドにある全米監督協会(DGA)の劇場で行われたこともあり、若きクリエイターたちが会場につめかけ、興奮と熱気に包まれていた。ちなみになぜこのカップリングかというと、ノーラン監督は『インソムニア』(02)から『TENET テネット』(20)まで組んでいたワーナー・ブラザース映画を離れ初めてユニバーサル映画で新作を撮ったこと、ダニエルズとユニバーサルが独占ファーストルック契約(独占的に新規プロジェクトの製作・配給権を取得する権利)を締結しているからだろう。作品宣伝のインタビューとは違い、ノーラン監督の笑顔がたくさん見られたのもダニエルズのキャラクターによるものだ。およそ35分間にわたって行われたQ&Aの中から、抜粋してお届けする。

「3時間のR指定映画が世界中でヒットするなんて異常事態です」(ノーラン)

ダニエル・クワン(以下、クワン)「クリス、これは声を大にして言いたいのですが、あなたにインタビューするなんて、かなり非現実的なことです。何年も、あなたからたくさんのことを学んできたので。そして今日は、あなたからもっといろいろ盗めると楽しみにしていました」

ダニエル・シャイナート(以下、シャイナート)「あなたから盗んだものにジョークを足すのが僕らの流儀です(笑)」

クワン「これは全米監督協会での上映会なので、オタクな質問から始めたいと思います。あなたの映画を観ていて、なによりも際立っていると思うのは、絶えず遊びのある構成です。物語のテーマや人物像が常に構成に反映され、その逆もまた然りという魔法のようなトリックがあります。『オッペンハイマー』における物語と構成の関係は?また、この映画にインスピレーションを与えた構造、もしくは着想源となった構成とはなんだったのでしょうか?」

クリストファー・ノーラン(以下、ノーラン)「まず、ダニエルズの2人が『非現実的だ』というならば、それを真に受けないといけないですね(笑)」

ダニエルズ「(笑)」

ノーラン「私にとっての構成とは、常に視点に関係しています。どのようなプロジェクトにおいても、どのようにストーリーを作っていくか、脚本家・監督として、脚本段階において自分が求めている視点をどのように得るのがベストなのかを考えています。『オッペンハイマー』の場合、『オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇(原題:American Prometheus)』というカイ・バードとマーティン・シャーウィンによるピュリッツァー賞受賞のすばらしい本を読んだ時、そこから多くのことを得ました。私がこの物語を伝えたいのは、そして伝えられる方法は、一人称のアプローチを採用することだと感じました。脚本を一人称で書き、オッペンハイマーの頭の中に飛び込みたかったのです。そして、それを補強する構成が必要でした。

そこで、呼吸を合わせるようなクロスカッティング(編集部注:異なる場所で同時に起きているものをつなぐ編集技法)を採用しました。常にオッペンハイマー(キリアン・マーフィー)の近くにカメラを置き、非常に濃密な主観的視点で、彼の肩越しの視点や、彼の顔、部屋の向こうからほかの人を見る視点を用いて物語を語ることにしました。そして、客観的な視点はほかの人の視点、特にルイス・ストロース(ロバート・ダウニー・Jr.)から彼を見る視点です。モノクロのシークエンスでは、カメラは常にロバート・ダウニー・Jr.に近づいています。それは常に、カラーのシークエンスと鏡合わせのような存在であり、ストロースの視点です。そこから視点についての構造が形成されていきました」

シャイナート「初期段階から、ストロースの視点からジャンプさせるつもりだったのですか?」

ノーラン「最初からです。私の初期の作品に『フォロウィング』というモノクロの16ミリフィルムで撮った作品があります。その時も自分がやりたい構成はわかっていたので、時系列に沿って脚本を書き、あとで構成をいじるほうが賢いやり方ではないかと考えました。当時は文字どおり、脚本をタイピングした紙かなにかをハサミで切ってつなげていたんじゃないかな。でも、それだと観客が納得して観られるような映画にするために何度も書き直さなければならないので、脚本を書き始める前に構成を決めておかないといけないと気づきました。それ以来、『メメント』以降は、どんな構成を採用するにしても、実際に脚本を書く前に、観客が映画を観る状態を決めておく必要があると思っています。というのも、現場に入って映画を撮影すると、撮影の順番なんてめちゃくちゃで、時系列どおりに撮影できることはほとんどないからです。だから、監督・脚本家として、1ページ目から始めて『オッペンハイマー』だと124ページか180ページくらいですが、観客に実際に観てほしい状態で書くことが大事なのです」

【写真を見る】異色の組み合わせ!アカデミー賞を総なめにした「エブエブ」ダニエルズが、クリストファー・ノーラン監督に質問
【写真を見る】異色の組み合わせ!アカデミー賞を総なめにした「エブエブ」ダニエルズが、クリストファー・ノーラン監督に質問[c]EVERETT/AFLO

クワン「映画を撮り始める時、いつも自分たちに課すことがあります。自分たちの前に立ちはだかる最大のハードルはなにか?ということです。そして、あなたは半分がモノクロの歴史ドラマで、多くの人がIMAX映画に対して抱くイメージとは正反対の作品を作りました。そのような懸念にもかかわらず大成功を収めた映画を作るために、どのような会話をし、どのような思考過程を経たのでしょうか?」

ノーラン「その答えは映画というメディアそのものと、私たちが映画作りを愛する理由にあると思います。私たちが映画を観ること、映画を作ることに熱中するのは、映像を撮り映像を組み合わせることへの欲求を駆り立てるなにかがあるからです。映画はなんでもあり得るし、スクリーンもなんでもあり得る。巨大なマクロレンズのクロースアップでもいいし、巨大なワイドやビスタでもいい。私は『ダークナイト』以来IMAXと仕事をしてきましたが、IMAXで撮影した映像の中で最も興味深いもののひとつに、シークエンスの最後を飾る巨大なクローズアップがあります。いつもだいたいマイケル・ケインのシーンなのですが。IMAXカメラが彼の周りを移動し、とても美しい。中判のポートレート写真と同じフレームサイズだから、役者の顔を撮るのにとても適しています。各作品で採用していて、『インターステラー』では、(撮影監督の)ホイテ・ヴァン・ホイテマが手持ちカメラで近づいていくようになりました。私たちは、IMAXカメラのそのような側面にどんどん引き込まれていきました。スクリーンと観客の間の障壁をどのように取り払い、観客のパーソナルスペースにどう入り込むかを知りたいのです。だから、映画的な方向にどんどん突き進み、このメディアを愛し、私たちが愛する方法を探求しました」

シャイナート「興行成績の成功は見込めていたのでしょうか。どうやってこの企画を売り込んだのでしょう。これはヒットしますから、というような…」

ノーラン「映画を作る時、私は実践的な観点から作品に取り組みます。だからスタジオに交渉に行く前に、脚本とセールスポイントを準備し、それを実用的な枠に当てはめて、『こうすればうまくいくと我々は思います』と伝えます。この映画の場合は、ワーナーで『ダンケルク』を撮った時とは異なり、ユニバーサルに売り込みに行きました。今作の大きな売り文句は、『この映画をほかの監督が撮る半分の予算で作ります。我々はそこに注力するので、あなた方はほかの大作映画と同じくらい売ってください』でした。なぜならこれはとても重要な物語で、大きな映画だからです。物議を醸す可能性もあるし、重大な素材と格闘する興味深い作品です。


過去の作品を振り返ってみましたが、文脈を見つけるのがとても難しかった。若いころに観た『JFK』まで遡る必要があり、編集のリズムに圧倒されました。あなたが最後に『JFK』を観たのはいつだったかわかりませんが、この映画が教えてくれたのは、会話劇からアクション映画を作ることができる、鼓動を高鳴らせ活力をみなぎらせる方法を見つけられるということでした。興行がどうなるかという個人的な不安はありましたが、たいていは楽観的に考えるようにしていました。もしもこの不可能に思える作品がすべてうまくいって、観客が気に入ってくれたら…と考えていましたが、この野心的な作品がここまでの成功を収めるとは思ってもいませんでした。つまり…クレイジーです。3時間もあるR指定の映画が世界中でヒットするなんて。R指定映画で史上2番目の成績だそうです。まさに異常事態です」

関連作品