2024年は怒涛のバイオレンスアニメ『BLOODY ESCAPE』で映画始め!谷口悟朗が仕掛ける世界観とキャラクターの魅力を深掘り
キサラギを軸にした“友情”の物語がアツすぎる!
映画の冒頭、クラスタの壁の外に広がる荒れ果てた荒野を行く人々の前に現れる不滅騎士団。そこへ颯爽と登場するのが、本作の主人公である改造人間のキサラギだ。義手義足で戦い、どこか虚無的な表情を浮かべる彼が、なぜ追われる身となったのか。そしてどこへ向かうことになるのか。そうしたキサラギの“過去”と“未来”をストーリー上のフックにしながら、彼を軸にした“現在”の人間模様を的確に描写していくのが本作の肝となる部分。そこにあるのはやはり、友情の物語である。
新宿クラスタで道端に倒れていたキサラギと、彼を保護するルナルゥとクルス。この3人の出会いが物語を動かしていく一つの要素。暴力と風俗にまみれた新宿クラスタから抜け出して違う生き方をしたいと願うルナルゥに、ヤクザ組織の情報屋として働いていて複雑な心境を抱える妹想いのクルス。
キサラギとクルスの過去は、過剰に深掘りされることはない。それでも中盤でヤオハチに襲われる場面で、それまでスタイリッシュな動きで敵と戦っていたキサラギが取り乱したようにヤオハチを殴る一連からは、2人がこの上なく深い絆で結ばれていることが容易に見て取れることだろう。
一見アウトローな一匹狼のようにも見えるキサラギだが、ルナルゥをガードしながら彼女に言われた「視界に入らないでください」という頼みを律儀に守ろうとする姿など、ところどころで見せる人間くささ。これがこのキャラクターにさらなる奥行きを与え、その魅力を高めているといえよう。
もちろんそれは、もう一つの重要な要素となる転法輪との関係性についても同様だ。物語上の“敵役”である転法輪だが、だからといって“悪役”というわけではない。彼には彼の正義があり、そしてヴァンパイアであるが故に隔離されて生きてきた哀しみが見え隠れする。2人は決して単純な敵対関係ではない。それでもキサラギを追わなければならない理由が転法輪にはあり、そのドラマこそが映画終盤の展開を一段とエモーショナルなものに仕立て上げていく。
劇中ではこうしたキャラクターたちのバックグラウンドを、最低限の説明にとどめながら的確に描写していく。自ずと観る側は、その行間に潜んだ“描かれない物語”に様々な想像をめぐらすこととなるだろう。クラスタから脱出したいと願う住民たちの多様な事情を描いたテレビアニメ版から作風はガラリと変わっても、根本にあるドラマティックな部分は保たれ続ける。むしろ密度が上がったことで、より強化された印象さえも受ける。