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ヨルゴス・ランティモスとの化学反応が炸裂!『哀れなるものたち』エマ・ストーンが見せる個性派俳優としての存在感

コラム

ヨルゴス・ランティモスとの化学反応が炸裂!『哀れなるものたち』エマ・ストーンが見せる個性派俳優としての存在感

死から蘇った女性が“赤ん坊”のような純粋さですべてを吸収していく

さて、ランティモス監督と再びコラボレートした『哀れなるものたち』は、第80回ヴェネチア国際映画祭でついに最高賞の金獅子賞を受賞し、再び世界の賞レースを席巻し始めた(第81回ゴールデン・グローブ賞のミュージカル・コメディ部門で作品賞と主演女優賞を受賞)。主演のみならずプロデューサーにも名を連ねるストーンが演じるのは、失意の底で命を絶つものの、マッド・サイエンティスト(ウィレム・デフォー)の手により彼の亡き赤子の脳を移植され、奇跡的に蘇生した女性ベラ。見た目はうら若き女性だが、精神も知能も“赤ん坊”という奇天烈さだ。ベラは新生児の眼差しで世界を見つめ、いろいろなことを貪欲に吸収しながら成長してゆく。好奇心のままに行動しながら、やがて“自分の目で世界を見たい”と、放蕩者の弁護士(マーク・ラファロ)の誘いに乗って大陸横断の旅に出る―。

一目でベラを気に入ったダンカンが彼女を旅に連れだす
一目でベラを気に入ったダンカンが彼女を旅に連れだす[c]2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

突き付けられるブラックユーモアがとにかく痛快!

前作以上に2人は、より挑戦的に、より大胆に、より自信を持って共犯関係を結び、世の矛盾や不条理に問いかける。“なにがいけないの?どっちが間違っているの!?”と。特に、世間の常識やいらぬ忖度を教え込まれる前に、性的なことも含めて精神的にも肉体的にも自発的に、自分の欲求や欲望や好奇心に素直に忠実に“試し、行動する”ベラが、世間体や名誉欲や権力の下僕たる多くの男たちに与えるパンチ級の衝撃が見もの。時代設定や世界観は遠いのに、独特のブラックユーモアが現代世界の世相や問題を、根底から鋭く突き刺す。 

ベラを独占したいダンカンは船旅をすることにし、彼女を船室に閉じ込めようとする
ベラを独占したいダンカンは船旅をすることにし、彼女を船室に閉じ込めようとする[c]2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

寓話的な世界観を設えたうえで禁忌に踏み込み人間の正体を晒すランティモスと、そこで生まれるグロテスクさや深刻さを、ユニークかつユーモラスな表現&演技力と存在感で瞬間的にフッと軽やかに浮上させるストーン。その卓越したブラックユーモアはますます磨かれ、2人の共犯関係はさらに強固なものに。詳細は伏せられているが、すでに2人は次回作『Kinds of Kindness』も撮影済みとのこと。

2度目のタッグとなるストーンとランティモスが、より大胆に、より挑戦的な作品として作り上げた『哀れなるものたち』
2度目のタッグとなるストーンとランティモスが、より大胆に、より挑戦的な作品として作り上げた『哀れなるものたち』[c]2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.


『バードマン』、『バトル・オブ~』、『女王陛下~』、『哀れなるものたち』、そして次なる『Kinds ~』と、気鋭のインディ&アート映画を手掛けるサーチライト・ピクチャーズの、いまや重要な担い手の一人にもなったストーン。映画界の輝ける希望として、観客をいい意味でまだまだ何度も欺いてくれるに違いない。

文/折田千鶴子

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