映画の原体験は『下妻物語』!アーティスト・ゆっきゅんがひも解くフランス映画の奥深さ「映画を観たあとに持ち帰った問いが、ずっと心のなかで生き続ける」
映画ファンのための“ここでしか観られない”作品の数々を発信するAmazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX」。現在、「Gaumont(ゴーモン)」セレクションと題して、フランスの老舗映画会社「Gaumont」の作品群のなかから、日本ではなかなか観る機会のない貴重なレア作品を中心にした10作品を一挙配信中だ。
そこで今回は、音楽活動の傍ら、映画評の執筆や映画関連のイベントなどでも活躍するアーティストのゆっきゅんが、本特集のなかから気になる3作品をセレクト。昨年12月にアンスティチュ・フランセ東京にて開催された「映画のアトリエ~フランス映画の秘宝を探して~」のトークショーにもゲストとして出演したゆっきゅんに、ピックアップした作品の見どころや魅力、さらに自身が好きなフランス映画などについても語ってもらった。
「感情表現が、頭突きやソーサーで頭を殴るとか、“アクション”に表れているのがおもしろい」(『放蕩娘』)
まず紹介したいのは、先述のアンスティチュ・フランセ東京でのトークショー上映作品でもあった『放蕩娘』(81)。昨年7月に享年76歳でこの世を去ったジェーン・バーキンの知る人ぞ知る衝撃作だ。セルジュ・ゲンズブールと別れたばかりのバーキンとジャック・ドワイヨン監督が初めてタッグを組んだ記念すべき作品であり、本作をきっかけに2人は結ばれ、1982年には娘のルー・ドワイヨンが誕生。以降10年ほど、公私共にドワイヨンのパートナーとなったバーキンは、計3作のドワイヨン作品で主演を務めている。
精神的に不安定な状態に陥っていたアン(バーキン)は、夫と暮らす家を出て、ノルマンディーの実家に帰り、しばらく両親のもとで過ごそうとする。そんななか、母親はアンの姉の出産の立ち会いのために、家を離れることに。父親(ミシェル・ピコリ)と2人きりになったことで、胸の奥に秘めていた父への想いを募らせていくアン。やがて、苦悩しながらも、近親相姦的な怪しい関係になっていく。
「ELLEやFIGAROを読んでいるので、ジェーン・バーキンはファッションアイコンのイメージが強くて。“女優としてのジェーン・バーキン”をちゃんと意識して観たのは、本作が初めてでした」と明かすゆっきゅん。「ジェーンは声がすてきですよね。その声の表現が、この作品のキーになっていると思う。全編ずっと、まるで秘密を打ち明ける時のようなウィスパーボイスで、それが本作の“密室性”をすごく高めているんです。『いま、あなたの目の前には私しかいないのよ…』という雰囲気が、囁くような発声から感じられて。それが時間の経過につれ、2人の間の危険性をどんどん高めていく力になっていました」。
ちなみに、トークショーでの対談相手だった、ゆっきゅんの大学&大学院時代の指導教授で、映画批評家の三浦哲哉は、本作におけるバーキンの特徴として、トレードマークのすきっ歯がのぞく「半開きの口もと」について言及していたとのこと。「アンのキャラクターの幼さを強調するというか、どこか相手の庇護欲をかき立てるところがありますよね」。
ジャン=リュック・ゴダール監督の『軽蔑』(63)などで知られるフランスの名優ミシェル・ピコリ演じる父親に対し、娘が抱き続ける複雑な感情について、「2人の関係性のなかでの感情表現が、“アクション”に表れているのがおもしろい」と指摘する。
「いきなり頭突きをするとか、ティーカップのソーサーで頭を殴るとか、思わず笑ってしまうようなジェーンの身体的な動作が独特でおもしろかったです。ベッドの上で、アンが自分のシャツをたくし上げて、むき出しになった父親のおなかに上半身を押し付けたあと、バッと身体を離すシーンとかも…。執拗なまでの、いわゆる性接触ではない形での肉体的な接触。メタファーだと思うんですけど、すごく印象的でした」。
もう一つ、ゆっきゅんが気になった演出は「扉の使われ方」だという。「劇中でドアを閉めるシーンが多く映されていて。ドアを閉めることによって、関係の密室性というか、2人の逃げ場のない感じがよく出ているなと。終盤、アンが一度、実家を出たあと、また戻ってくるんですけど、その時も父と娘が扉をはさんで対面する。やっぱり、扉が重要なモチーフとして扱われているように思いました。忘れられないシーンですね」。
1995年、岡山県生まれ。青山学院大学文学研究科比較芸術専攻修了。サントラ系アヴァンポップユニット「電影と少年CQ」としてのライブを中心に、個人では映画やJ-POP歌姫にまつわる執筆、演技、トークなど活動の幅を広げる。2021年5月よりセルフプロデュースで「DIVA Project」を始動した。一番好きな歌姫は浜崎あゆみと大森靖子。修士論文のテーマは少女マンガ実写化映画の変遷。
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