鬼才アリ・アスターが語る、最新作『ボーはおそれている』常識破りの構造の真意、ホアキン・フェニックスとの初タッグの感想は?
「話して話して話しまくる。話し尽くしたらさらに話し続ける」
「僕はこの映画は、“満たされない空虚な人生”を描いていると思っています。それが兼ねてから僕が考えていたことであり、その衝動から生まれたのがボーという人物です。僕は彼を“偉大な主人公”だとは呼ばないけれど、僕にとって真相を解明するだけの価値がある人物なのです」。
アスター監督がそう語る主人公のボー。演じるのは『ジョーカー』(19)で第92回アカデミー賞主演男優賞に輝いたホアキン・フェニックスだ。アスター監督が出演をオファーした時点でフェニックスは、すでにリドリー・スコット監督の大作『ナポレオン』(23)への出演契約を交わしていたが、本作の役柄を気に入り出演を承諾した。
「彼がこの映画に正式に参加することを表明する前に、僕たちはたくさん会話を交わしました。それがきっかけで本当に仲良くなれたことが、出演を決めてくれた一番の理由だったのではないでしょうか」と、アスター監督はフェニックスとのファーストコンタクトを振り返る。「僕たちは仕事に対して同じような見方をしていた。真剣に取り組むけど遊び心もある。きっと彼は僕の作品に、彼自身が興味を持つ場所へ行くチャンスを見出したのだと思います」。
常に徹底した役づくりをしたうえで作品に臨むことで知られているフェニックス。本作でも、多忙ななかでアスター監督と入念な話し合いを重ね、共に“ボー・ワッセルマン”という人物を完璧なかたちに作りあげていったという。「多くのことにトライしながら、ルックスや身のこなし、髪型などあらゆるものを検討していきました。物語をよりよくする方法は、話して話して話しまくること。そしてひたすら話し続ける。もうすべてを話し尽くしたと思ったら、さらに話し続けるのです」。
そして「ホアキンはとても謙虚で、全力で役に挑む俳優です。一緒に仕事をする前は、ホアキンを世界で最もすばらしい俳優だと思っていました。ですがいまは、僕の想像以上にすばらしい俳優だと思っています。いままで俳優と仕事をしたなかで、最高の経験になりました」と満足げに振り返った。
構成・文/久保田 和馬