知っているとより楽しい!『同感~時が交差する初恋~』で描かれる「Y2K」カルチャーと現代流行語を解説
異なる時代に生きる大学生の男女が無線機を通してつながる『同感~時が交差する初恋~』(公開中)。1999年に生きるヨン(ヨ・ジング)と2022年の女子大生ムニ(チョ・イヒョン)との交流は、お互いの時代を知らない2人がカルチャーギャップに戸惑う様子と共に描かれ、笑いを誘う。だが、それは日本の観客にもおなじみのものもあれば、韓国特有の文化や言葉で表現されるものもある。ここでは、劇中に登場する以外も含めた新旧韓国カルチャーを紹介しよう!
どん底経済のなか、日本との文化交流が本格化した1990年代後半
本題に入る前に、ヨンのいる1999年の韓国の経済事情を押さえておこう。現在では韓国でも日本でも「Y2K(Year2000)」「ニュートロ(NEW+Retro)」と呼ばれ、1990年代後半から2000年代初頭のカルチャーに再び注目が集まっているが、99年当時の韓国は97年秋に起こった経済危機を引きずっている状態だった。IMF(国際通貨基金)の緊急支援を受けることになり、零細企業の多くが倒産。99年末に金大中大統領がIMF時代の終了を宣言したことで、一応終息した。劇中ではそれほど描かれないが、ヨンの生きる99年は多数の国民が苦境に陥っている時代だったのだ。
そんな苦しい経済状況の最中の98年10月に金大中大統領が訪日。国会議事堂で「日本の大衆文化解禁の方針」を表明したことで、韓国は日本の大衆文化を順次受け入れ始め、日韓の文化交流が本格的にスタート。現在から考えると信じがたいが、韓国ではそれまで日本の音楽や映画が禁止されていたのだ。
『同感~』に話を戻すと、ヨンと彼が思いを寄せるハンソル(キム・ヘヨン)が映画館デートで観に行くのは1999年国内観客動員数2位のヒット作『アタック・ザ・ガス・ステーション!』。ちなみに1位は名作『シュリ』、2022年のムニは『シュリ』を知らず、「Siri」と聞き間違えている。両作は日本でも公開され、韓国映画ブームの火付け役に。この年はほかにシム・ウナ主演の『カル』や、アン・ソンギ、チャン・ドンゴンらが出演した『NOWHERE 情け容赦無し』などがヒットを記録。音楽ではH.O.T.をはじめ、日本進出も果たしたガールズグループS.E.S.などK-POPアイドル第1世代がすでに活躍し、熱狂的人気を得ていた。ヨ・ジングいわく、ヨンのファッションはH.O.T.のライバルグループであるSechs Kies(ジェクスキス)や、当時の人気ドラマのスタイリングを参考にしたという。
映画のあとのゲームセンターでは「DanceDanceRevolution」に興じるヨンとハンソル。98年に日本で開発されたダンスゲーム機は韓国でも大人気だった。ヨンが身につけているG-SHOCKも当時の流行アイテム。また、彼が背負う「JANSPORT」のバックパックは現在でも見かけるが、特にこの頃の学生は誰もが持っていたため、韓国の人にとって時代を象徴する物なのだそうだ。
ヨンはすでにアンテナを立てるガラケータイプの携帯電話を持っていたがハンソルは持っておらず、ポケベルも使われていた時代。公衆電話でよく見られたのは、劇中出てきたように、通話を終えても受話器を戻さず横に置くという光景。これは、料金を使い切っていなければその後も通話が可能なので、次に使う人のための配慮だった。日本と同じカード式の公衆電話もあった。ちなみに韓国における公衆電話ボックスの設置数は1999年の15万3000台がピークで、携帯電話はこの頃から急速に普及し始めた。
ヨンを戸惑わせたムニが使う現代流行語
初めて交信できたことに驚いた「헐!(ホル)」に始まって、2022年を生きるムニが使う言葉は99年のヨンには意味不明な言葉ばかり。小学生を指すほか、子供っぽい言動をからかって使う「초딩(チョディン)」も広まったのは2000年代以降。スマホも登場前なので、当然韓国発のコミュニケーションアプリ「카톡(カカオトーク)」も存在しない。
そして、いまの韓国の若者は略語を多用する傾向があり、「베스트 프렌드(ベストフレンド)」→「베프(ベプ)」や、「절친한 친구(チョルチナンチング)」→「절친(チョルチン)」のように単語の頭の文字を取って略すのが主流だが、これもヨンにとっては新鮮だ。これらの言葉の乱れをムニは「(ハングルを作った)世宗大王が聞いたら布団キックをするでしょうね」と言うが、「이불킥(布団キック)」とは、自分の恥ずかしい行動を思い返すことを意味し、2014年にBTSがリリースした曲により有名に。友達以上恋人未満の微妙な人間関係を表す「썸(ソム)」もやはり2014年のヒット曲から定着した。
『同感~』で描かれる90年代後半は「便利になりつつあった不便な時代」。まだ携帯電話を持っている人のほうが少なかったため、コミュニケーションのすれ違いは多々あり、話したい時に話せず、会いたい時にいつでも会えるという時代ではなかった。本作は1979年の女子大生と99年の青年が時空を超えて交流する『リメンバー・ミー』(00)という名作のリメイク。ソ・ウニョン監督が今回過去の時代を99年に設定したのは「Y2K」ブームの影響も多少あっただろうが、SNS時代の現在では体験できない“もどかしさ”を描きたかったからではないだろうか。
文/小田 香 構成/編集部