『パスト ライブス/再会』英国アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた俳優ユ・テオに迫る
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(22)のA24と、『パラサイト 半地下の家族』(19)を配給した韓国のCJ ENMが初の共同製作で贈る『パスト ライブス/再会』(4月5日公開)。今回、本作の新場面写真1点が解禁。さらに、ヘソン役を射止めた俳優、ユ・テオの人物像が明らかになった。
本作は、ソウルで初恋に落ちた幼なじみの2人が、24年後の36歳、ニューヨークで再会する7日間を描くラブストーリー。物語のキーワードは「運命」の意味で使われる韓国の言葉“縁(イニョン)”。見知らぬ人とすれ違ったとき、袖が偶然触れるのは、“前世”でなにかの“縁”があったから。久しぶりに再会した2人は、ニューヨークの街を歩きながらこれまでの互いの人生について語り合い、過去の自分たちが「選ばなかった道」に想いを馳せていく。
監督を務めるのは、本作で長編映画監督デビューをはたしたセリーヌ・ソン。5部門にノミネートされた第81回ゴールデングローブ賞では、外国語映画賞や作品賞(ドラマ賞)に加え、主演のグレタ・リーを女優部門(ドラマ)に押し上げただけでなく、監督賞と脚本賞にソンの名前が上がった。
そんなソン監督が、オーディションで見出したのが、ヘソンを演じるテオ。韓国人の両親を持ち、ドイツのケルンで生まれ育った彼は、4月に43歳を迎える遅咲きの俳優だ。少年のような初々しさをも感じる佇まいや表情で魅せるテオとははたしてどこから来た何者なのか。
高校時代、膝の怪我によってバスケットボール選手への道を絶たれたテオが巡り合ったものが“演技”だった。高校卒業後、ニューヨーク、ロンドンで演技を学んだが、欧米ではそのルックスから回ってくるのはアジア人の役ばかり。二度目の渡米の際に、一回り年上でカメラマンの妻と出会い、結婚後韓国に。知名度が低い時期は、劇中4回しか登場しない悪役や主人公の親友として3話で亡くなる役など、メインとは言い難いキャラクターを演じてきた。しかし、そんな時は自分の好きな俳優たちがどのようにキャリアを積んでいったのかを調べたそう。「ヒース・レジャーも、デンゼル・ワシントンも似たような役割をはたして、自分の色をはっきりと見せる時期がありました。マシュー・マコノヒーは10年間ラブコメを中心に出演していたけど、『ダラス・バイヤーズクラブ』でドラマチックな役柄を演じアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞で主演男優賞を獲った。そういった軌跡を見ながら、自分がどのような役割をはたさなければならないのか、グローバル市場ではどのように見えるのか考えるようになりました」と過去を振り返る。
15年の長い下積みののち、2017年『LETO -レト-』(20)を引っ提げカンヌ国際映画祭のレッドカーペットに降り立った。韓国系ロシア人で旧ソ連の伝説的ロック歌手ビクトル・ツォイ役を、2000倍の競争率のなか勝ち抜いた彼は、以降韓国でも活躍の場を広げていく。そんななかで本作のシナリオと巡り合ったというが、その時のことを「最初に脚本を読んだ瞬間からすごく感動してしまい、泣きだしてしまったんです。とても美しい映画だった」と語る。
また、ドイツで幼少期を、欧米で青春を過ごしたテオにとって、この映画のなかで描かれている“イニョン=縁”という概念が強く心に響いたという。「ソン監督が、この韓国ならではの文化を分かりやすく西洋の観客に紹介してくれたことが凄く嬉しかったし、幸運であるとすら思いました。日々の生活のなかで、韓国では凄くカジュアルに使われているからです。物語の主題であるこの“イニョン=縁”という観念を学びながら、哲学や仏教思想などを自分の人生と関連付けて考えるようになったところが、この作品と出会った上で一番特別なことでした」。
これまでの生い立ちやキャリアを思い返した時にテオがぶつかる壁は、アイデンティティの在り方。そんな悩みにも、この作品との出会いで救われたようで「韓国で生まれ育った俳優をキャスティングすることもできたはずなのに…。自分が韓国人だというアイデンティティを認められたようで胸がいっぱいでした。ニューヨークの真ん中で交通規制をして、あちこちに韓国語が書かれたタイトルがついていて、私の名前が書かれた椅子が置かれていて。 夢のような状況でした」と喜びを噛みしめながら語った。本作で彼が扮するヘソンは、ソウルで生まれ育ち、兵役を経験した後大人になっても家族と同居しているという、劇中の言葉を借りると「韓国的な男らしさ」を持った人物といえる。
テオがニューヨークに続き演技を学んだロンドンでは、結果発表を18日(日)に控えた英国アカデミー賞に、非英語作品賞、脚本賞とともに、主演俳優賞にテオがノミネートされている。また、前作がアメリカで大ヒットしたNetflixドラマ「ザ・リクルート2」の主演にも抜擢され、注目度はますます上がっている今日この頃、テオは「演じることは私の夢だったし、いまでも夢なんです。私が演技を選んだのではなく、演技が私を選んだのだと感じています」と語っている。
世界中から熱視線が注がれる俳優、ユ・テオは『パスト ライブス/再会』でははたしてどのような演技を見せてくれるのだろうか?本作の公開が待ち遠しい。
文/サンクレイオ翼