「ウルトラマンには、もっと可能性がある」田口清隆監督が目指す、特撮の未来と“夢”の進む先

インタビュー

「ウルトラマンには、もっと可能性がある」田口清隆監督が目指す、特撮の未来と“夢”の進む先

妻子のある防衛組織の隊長がウルトラマンに変身するという設定や、ハードSF調のサスペンスフルな展開が話題となり、約半年間の放送期間中に複数回のX(旧Twitter)世界トレンド1位を記録した『ウルトラマンブレーザー』。1月20日に迎えた最終回の興奮も冷めやらぬなか、2月23日には劇場映画となる『ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突』が公開となった。

MOVIE WALKER PRESSの取材に応じてくれた田口清隆監督
MOVIE WALKER PRESSの取材に応じてくれた田口清隆監督[c]円谷プロ [c]ウルトラマンブレーザー製作委員会・テレビ東京

テレビシリーズに続きメガホンを取ったのは、いまや特撮作品を語るうえで欠かせない存在である映画監督、田口清隆。MOVIE WALKER PRESSでは、ゴジラ、ガメラ、仮面ライダー、スーパー戦隊すべての現場を経験してきた“特撮の申し子”を直撃。テレビシリーズから映画にかけての制作秘話を尋ねていくなかで、名だたるレジェンドたちによって磨かれた特撮魂と、夢を追求し続ける少年の心が明らかになってきた。

「過去のウルトラマンの力を借りない、一本一本独立したSFドラマを目指しました」

初回から、Xの世界トレンド1位となった『ウルトラマンブレーザー』
初回から、Xの世界トレンド1位となった『ウルトラマンブレーザー』[c]円谷プロ [c]ウルトラマンブレーザー製作委員会・テレビ東京

2013年に始まった『ウルトラマンギンガ』以降、“ニュージェネレーションウルトラマン”と呼称される新たなウルトラマンが毎年お茶の間に登場し、着実にウルトラマンの歴史を繋いできた。ファンから通称“ニュージェネ”と呼ばれるこの作品群は、新米ヒーローが過去作のウルトラマンや怪獣の力を借りつつ、仲間と共に成長していくという特徴を持っている。この手法によって、ウルトラマンのファン層は親子2世代から3世代へと拡大し、往年の作品群の若年層への認知も飛躍的に向上したといえるだろう。

しかし田口は、『ウルトラマンブレーザー』でその成功の方程式をあえて打ち破ろうと考えた。「今回メイン監督を務めるにあたって、過去のウルトラマンの力を借りない独立した世界観を作り、そしてその世界観に合わせた新規怪獣たちを多く出したいと考え、円谷プロやバンダイさんと相談しながら進めていきました。僕が一番影響を受けている初代『ウルトラマン』は一本一本が独立したSFドラマとしてどの話から見ても楽しめる構造になっているので、今回はブレーザーと特殊部隊SKaRDを中心に構築していくことにしたんです」。

第22話「ソンポヒーロー」は冒頭から、レッドキングとギガスの旧作オマージュも炸裂!
第22話「ソンポヒーロー」は冒頭から、レッドキングとギガスの旧作オマージュも炸裂![c]円谷プロ [c]ウルトラマンブレーザー製作委員会・テレビ東京

結果、全25話中の22話に本作の新怪獣が登場しており、その分、旧作怪獣が登場するエピソードは厳選され、いずれも密度の濃いドラマが展開された。田口は旧作怪獣の生態を理解し、その個性を丁寧に描くことに力を入れたという。

「ゴモラやレッドキングのようなスター怪獣が、特別感なく出てきてしまうことが以前より気になっていて、旧作怪獣のエピソードでは彼らの個性を絶対失わないように描写しようと決めていました。僕自身の演出回では、長年やりたかったガヴァドンのエピソード(第15話「朝と夜の間に」)をやらせてもらえたので、『ウルトラマン』第15話『恐怖の宇宙線』を徹底的に研究して、現代版として相応しいものを考えました。自分の演出回ではなかったガラモン回(第9話「オトノホシ」)、レッドキングとギガス回(第22話「ソンポヒーロー」)も、非常に熱が入った回になりました」。

自身の演出回となった第15話「朝と夜の間に」では、念願のガヴァドンを登場させた田口監督
自身の演出回となった第15話「朝と夜の間に」では、念願のガヴァドンを登場させた田口監督[c]円谷プロ [c]ウルトラマンブレーザー製作委員会・テレビ東京

「本作が“生まれて初めての怪獣映画”になることへの責任を考えました」

本作のドラマを躍動感あるものにしている大きな要素が、特殊部隊SKaRDの隊長である主人公・ヒルマ ゲント(蕨野友也)と隊員たちの細やかな人物造形だ。防衛組織をリアリティあるものにするため、シリーズ構成を担当した小柳啓伍と田口が掲げたテーマは「あらゆる世代の誰もが、なにかの板挟みになっている」ということだった。

“大部隊のなかの特殊部隊”という設定のもと、徹底したリアリズムに基づいた人物描写が光った
“大部隊のなかの特殊部隊”という設定のもと、徹底したリアリズムに基づいた人物描写が光った[c]円谷プロ [c]ウルトラマンブレーザー特別編製作委員会

「防衛組織が5、6人だけで地球を守っていることに前々から違和感を感じていて、小柳さんと試行錯誤するなかで“大部隊のなかの特殊部隊”という案が出てきました。全員で現場に行って対処することが多い特殊部隊だと、一番動きやすいのが指示をしたり先頭を突っ切ったりする隊長なんじゃないかと。主人公をルーキーではなく指示しなければいけない立場に置けば、上官と部下に挟まれたり、妻子がいれば家庭と仕事に挟まれたり、ウルトラマンなら地球人と宇宙人に挟まれたり…様々なことに板挟みになって、それがキャラクターへの感情移入を生むんじゃないかと思ったんです」。

こうして新怪獣とリアリティあるキャラクターが活躍する作品となったテレビシリーズは、緻密な伏線を張ったハードSF的作風を持ったシリーズとして視聴者に歓迎された。しかし劇場映画では、田口はまた違った課題を抱えていたそうだ。


蕨野友也演じるヒルマ ゲント隊長の家族のドラマにも、重心が置かれた
蕨野友也演じるヒルマ ゲント隊長の家族のドラマにも、重心が置かれた[c]円谷プロ [c]ウルトラマンブレーザー製作委員会・テレビ東京


「テレビシリーズは芯の強いハードSF重視の構成で進めていたけど、映画ではそれは難しいと思っていました。テレビシリーズは何度でも戻して観ればいいけれど、映画は1時間座って観てもらう作品になってしまうので。しかも、この映画で初めて『ウルトラマン』に触れる子どもたちがいる可能性を考えると、この作品が“生まれて初めての怪獣映画”になることへの責任があります。そこで、子どもが観やすいものにしようというコンセプトから、迷わず王道を目指そうと足並みを揃えました」。

その言葉通り、完成した劇場映画はまさに直球の怪獣映画となった。特に、映画冒頭で繰り広げられるSKaRDメンバーとタガヌラー、ズグガンとの激しい地上戦について、田口は熱いこだわりを語ってくれた。

国会議事堂を怪獣が襲う!まさに“王道”の仕上がりとなった『ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突』
国会議事堂を怪獣が襲う!まさに“王道”の仕上がりとなった『ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突』[c]円谷プロ [c]ウルトラマンブレーザー特別編製作委員会

「基本的にはメカニックを駆って闘ってきたSKaRDのメンバーを映画でもっと活躍させるためになにをしようかと考えた時に、本作の新怪獣のなかに地球産の虫怪獣が2種類いたので、『スターシップ・トゥルーパーズ』みたいな白兵戦をやりたいと思ったんです。以前から、ワンカットでスーツが2体分しかない怪獣をたくさんいるように見せる撮影手法はやってみたいと思っていたので、今回はそれをアクションができる隊員役の役者さんたちと相談しながら作っていきました。ロケ地の協力もあって火薬を使ったりできたし、手前で小型怪獣と戦っている後ろでウルトラマンと巨大怪獣が戦っているような映像も撮れたので、そこは非常に満足いったポイントです」。

■ウルトラマンブレーザー Blu-ray BOX 1 (特装限定版)
発売中
発売・販売元:バンダイナムコフィルムワークス

■ウルトラマンブレーザー Blu-ray BOX 2 (特装限定版)<最終巻>
発売中
発売・販売元:バンダイナムコフィルムワークス

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