「ウルトラマンには、もっと可能性がある」田口清隆監督が目指す、特撮の未来と“夢”の進む先
「インターンの現場で、とにかく『特撮が好きだ!』と言いまくっていました(笑)」
高校を卒業して上京し、1999年に日活芸術学院に入学した田口監督。そのなかで学校から紹介されたインターンが、2000年に公開された織田裕二主演のアクション大作『ホワイトアウト』で神谷誠監督が指揮した特撮班だった。
「周りに特撮好きが少なかったので、特撮現場は僕に回ってきました。それで『ホワイトアウト』の特撮班に行ったら、(庵野秀明が監督した『ガメラ3』のメイキングビデオ)『GAMERA1999』で見たスタッフの方々が全員そこにいたんです(笑)。『ホワイトアウト』の現場で出会った方に連れて行ってもらった次の現場が、原口智生監督の『さくや 妖怪伝』。憧れの樋口監督が指揮を執られた特撮班で、特撮研究所の方々と働くことになりました。その次の現場が『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』だったので、ガメラなどの大映系、東映と縁の深い特撮研究所、東宝の本丸であるゴジラを一気に経験できたんです。現場でとにかく『特撮が好きだ!』って言いまくっていたのが良かったんですかね(笑)。その甲斐あって、どんどん次の現場に連れていってもらえたのだと思います」。
そして2002年、念願叶ってウルトラマンに携わるチャンスが訪れる。その話を持ち掛けたのは田口とは日活芸術学院の同期であり、現在は共に「ウルトラマン」シリーズの監督として共闘する盟友・武居正能だった。
「『ウルトラマンコスモス』が好評で1クール延長になった時に武居さんに別の仕事が入ってしまい、ピンチヒッターとして呼んでもらったんです。第56話『かっぱの里』から最終回(第65話)までの時期ですね。そこで村石宏實監督、原田昌樹監督、八木毅監督、市野龍一監督ら、いわゆる“平成ウルトラマン”を作ってきた監督たちとご一緒することができたことは、自分にとって大きな財産だと思っています」。
「飯塚定雄さんからは、志の部分で大きな影響を受けています」
田口が「ウルトラマン」シリーズを築き上げてきた先人たちと仕事を重ねていくなかで、もっとも深い関わりがあったのが、『ゴジラ』(54)から『シン・ウルトラマン』(22)まで現役を貫き、初代ウルトラマンの“スペシウム光線”を描いた伝説の男、光学合成技師の飯塚定雄だった。その関係は飯塚の自宅に地元の特産品である毛蟹を持っていって酒を飲み交わすほどの深い師弟関係で、数えきれないほどの教えを間近で受けてきた。
「『ウルトラマンコスモス』のあとに『ゴジラ×メカゴジラ』の美術部として三池敏夫さんの下で働いていて、そこで合成班だった日本映像クリエイティブの松岡勇二さんに仲良くしていただきました。松岡さんに自主映画を完成させるために合成を覚えたいと言ったら『うちでバイトしなよ』と誘っていただき、そこで飯塚さんと出会いました。飯塚さんからはスペシウム光線を描いた時の話とか、円谷英二監督と喧嘩しながらキングギドラの引力光線がどうして生まれたのかとか、70年近いキャリアの裏話をたっぷりと聞かせてもらって、本当に可愛がっていただきました。初めてメイン監督を務めた『ウルトラマンX』で光線を描いていただけたのは、僕の誇りです」。
2023年3月24日、飯塚は88歳でこの世を去った。晩年まで親交を結んだ亡き恩師から受けた訓示を、田口はいつも胸に抱いているという。「飯塚さんからよく言われていたのは、どこまでも追及し続けろということでした。例えば、瓦礫が落ちてくるような時にはそこでなにが起きるかを想像しろなど、いつまでもギラギラと考え続ける姿勢を学びました。その教えのおかげで、自分も慣れたり手を抜いてはいけない、いつまでも学び続けなければと思って仕事ができています。現場で諦めそうになった時に飯塚さんの言葉が頭に浮かんできて…“追及し続けろ”と。具体的な技術以上に志の部分で大きな影響を受けていると思います」。
「CGとミニチュアのハイブリッドな表現には、大きな未来がある」
先人たちの教えを胸に、特撮界のトップランナーとして走り続ける田口。彼がこれから目指していく“夢”を、最後に尋ねた。「いつか単独の長編映画として“ウルトラマン”を撮りたいと思っています。“ニュージェネ”の映画はテレビシリーズの延長の物語で、しかも最終回と並行して作っています。独立した一本の映画として作ったウルトラマンは2012年の『ウルトラマンサーガ』が最後なんです。最近だと『ゴジラ-1.0』が世界的に評価されたり、ハリウッドではマーベルヒーローの映画やドラマがどんどん作られています。ウルトラマンももっと色々できるはずなのに…僕自身、諦めていること、やれていないことがたくさんあると思っています」。
「CGとミニチュア特撮のハイブリッドな表現には大きな未来があると感じています。その融合をもっともすばらしい形で昇華していたのは『ガメラ3 邪神覚醒』だと思っていて、きっとウルトラマンをやるならこの形がいいんじゃないかと。もっと予算と時間をかけて作っていけばきっと『ガメラ3』のその先が見える。この夢を実現するために、これからも志を持ち続けて、ウルトラマンを作っていきたいですね」。
『ウルトラマンブレーザー』第15話「朝と夜の間に」のラスト。ブレーザーの手で宇宙に還った二次元怪獣ガヴァドンが一番星になったのを見て、主人公の息子、ジュンは自分の絵から生まれたガヴァドンや友達と過ごした思い出を振り返り、こうつぶやく。「世界中が僕らの秘密基地みたいだね」。少年の心を持ちながらも、プロフェッショナルとして挑み続ける映画監督、田口清隆の“夢”の進むその先を、特撮を愛するすべてのファンたちと共に、私も見守っていきたい。
取材・文/小泉雄也
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