クリストファー・ノーランによる至高のオールスター映画『オッペンハイマー』。一流俳優たちが演じる、本作の登場人物を一挙紹介
マット・デイモンにフローレンス・ピュー、ケネス・ブラナー。一流俳優が脇を固める
そのほかにも『オッペンハイマー』には豪華キャストが集結した。マンハッタン計画を指揮し、オッペンハイマーをリーダーに抜擢する、アメリカ陸軍将校のレズリー・グローヴス役にマット・デイモン。「グローヴスはエゴを持っていて、みんなに好かれたわけじゃない。開発する武器の意味を大して考えず、『俺はやるって言った。だからやった』という人物を演じた」と語るように、デイモンのポジティブな演技は本作でも異彩を放つ。
『ミッドサマー』(19)などで、いまやハリウッドでも最も売れっ子となったフローレンス・ピューは、オッペンハイマーと深い恋愛関係に陥り、後年の彼の運命も変えた心理学者、ジーン・タトロック役。「ジーンは無遠慮で、複雑な性格に加え、ある種の力量を持った女性。オッペンハイマーと過ごす時は、自分らしく水を得た魚のよう」とピューが話すように、ジーンとオッペンハイマーのシーンは、作品の中でも官能的で、強烈なインパクトを残す。
マンハッタン計画におけるオッペンハイマーの“同志”ともいえる物理学者、アーネスト・ローレンス役は『ブラックホーク・ダウン』(01)などのジョシュ・ハートネット。「ローレンスは粒子衝突型加速器の原型を作り、歴史を変えた科学者であり、社交的で資金集めもうまかった」と、オッペンハイマーとの性格の違いを説明するハートネット。「ニューメキシコでの撮影では、家族のように一緒に食事をしたりと、いまどきの映画の現場とは思えなかった」と、キャストやスタッフに育まれた絆も打ち明けた。
また、ノーベル賞受賞の物理学者、ニールス・ボーア役は、『ダンケルク』(17)『TENET テネット』に次いで3度目のノーラン作品出演となるケネス・ブラナーに託された。オッペンハイマーはイギリス留学時にボーアの授業に出席している。「彼の量子力学の知識により、世界は原爆や核エネルギーに向かって進んだ。オッペンハイマーにとってはオビ=ワン・ケノービのような存在。アインシュタインに匹敵する知能の持ち主ながら、サッカーやスキーも好きで、手を伸ばせば届く普通の人間だった」と語るブラナーによって、親しみやすい天才像が完成された。
さらにアメリカ陸軍将校のボリス・パッシュ役に『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(17)のケイシー・アフレック、物理学者デヴィッド・L・ヒル役に『ボヘミアン・ラプソディ』(18)のラミ・マレックという2人のオスカー俳優や、『アメイジング・スパイダーマン2』(14)のハリー役で知られるデイン・デハーンら、錚々たるキャストが出番は短いながら、キーパーソンとして登場。これまでのイメージを変える存在感を放っており、『オッペンハイマー』はオールスター映画としての豪華さも備えている。
実力派スターたちをここまで揃え、彼ら一人一人から新たな一面を引き出し、極上のアンサンブルを達成。そのうえで壮大なストーリーと映像で観る者を圧倒するという意味で、“監督”クリストファー・ノーランの集大成と位置づけることもできる『オッペンハイマー』。この揺るぎない事実を確認するうえでも、日本での劇場公開はプレシャスな体験になることだろう。
文/斉藤博昭