スパイ映画の新視点、ネコ、そしてビートルズ…マシュー・ヴォーン監督が語る『ARGYLLE/アーガイル』を構成する3つの要素

インタビュー

スパイ映画の新視点、ネコ、そしてビートルズ…マシュー・ヴォーン監督が語る『ARGYLLE/アーガイル』を構成する3つの要素

ネコとビートルズが『ARGYLLE/アーガイル』の世界をさらに充実させる!

実は劇中には、重要なキャラクターとしてヴォーン監督の“家族”が出演している。それはエリーの一番の友であり、彼女と一緒に冒険に繰り出すことになるネコのアルフィーを演じたチップだ。

ネコ用バックパックに入ってエリーと共に行動するアルフィーを演じたのは、ヴォーン家のチップ
ネコ用バックパックに入ってエリーと共に行動するアルフィーを演じたのは、ヴォーン家のチップ[c] Universal Pictures

「以前、娘たちがテイラー・スウィフトのドキュメンタリーを観ていた時に、彼女がネコ用のバックパックを背負っていたことが印象に残っていました。当初はエリーはアルフィーを残して冒険に出る予定でしたが、物語をよりドラマティックにするためにはアルフィーが必要だった。それでもタレントネコはお金がかかるしあまり協力的ではないことが撮影初日になって判明しました。そこで私は娘の部屋に行きチップを抱え、これから3ヶ月一緒に仕事をすると宣言したのです」。

元々あまりネコ好きではなかったというヴォーン監督だが、撮影期間中にチップと同じ楽屋で生活していくうちに絆を深めていき、チップもその期待に応えるようにすばらしい演技を見せてくれたと賛辞を送る。「最高の役割を果たしてくれたし、注目をさらうくらいチャーミングでおもしろいことに驚かされました」。

【写真を見る】『ARGYLLE/アーガイル』は“ネコ映画”!プレミアでもバックパック入りのネコをフィーチャー
【写真を見る】『ARGYLLE/アーガイル』は“ネコ映画”!プレミアでもバックパック入りのネコをフィーチャー[c] Universal Pictures

そしてヴォーン監督は、自身の作品において最も重要な要素である音楽についてのこだわりにも言及する。それは劇中でのエリーとエイダンの関係の変化をあらわす楽曲であり、ヴォーン監督は両者の関係について「深い部分ではラブストーリーなんだ」と説明する。「ラブソングを探していたのだけれど、映画のなかで3回流した時に毎回意味が変わるような曲を探していました」。

いくつもの曲を試した結果、たどり着いたのは2023年11月にリリースされ世界中で大きな話題を集めたビートルズの“最後の新曲”「ナウ・アンド・ゼン」。ヴォーン監督は熱心なビートルズファンとして知られており、ビートルズの有名プロデューサーのジョージ・マーティンの息子ジャイルズ・マーティンから劇中でビートルズの曲を使わないかと提案されたという。「思わず笑って、ジャイルズに『そんな高額は払えない』と何度も言いました。そうしたらジャイルズは、『実はうまくいくかもしれないビートルズの新曲があるんだ』と言ったのです」。

熱心なビートルズファンとしても知られるマシュー・ヴォーン監督
熱心なビートルズファンとしても知られるマシュー・ヴォーン監督[c]SPLASH/AFLO

そこで聴かされたのが、当時まだリリース前だった「ナウ・アンド・ゼン」。ヴォーン監督はすぐさま度肝を抜かれたという。「試験的に映画に乗せてみると、編集を一つも加えることなく完全にピッタリとハマりました。まるでジョン・レノンがこの映画を観て、私たちのために曲を作ってくれたかのような、この映画の中心にある人間関係を包含する歌詞でした」と感激したことを告白。


さらにこの楽曲のメロディーをスコアに取り入れるため、ポール・マッカートニーとも対面したという。「史上最高のソングライターの曲を編集しているなんて、なんて光栄なことだ。本作で『ナウ・アンド・ゼン』は10分間も流れます。ビートルズ最後の曲で、ビートルズと仕事をすることになるなんて。人生における突拍子もない夢だと思っていたけれど、監督としての道のりのなかでいまそれが現実のものとなりました」と喜びに満ちた表情で語った。

構成・文/久保田 和馬

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