『クラユカバ』神田伯山がアフレコでみせたこだわりと並々ならぬ覚悟「一生懸命作られた作品を、声で壊すことはできない」
「僕の採用は博打だったと思います」
細田守監督の『未来のミライ』(18)のロボット、樋口真嗣が総監督を務めたアニメ「ひそねとまそたん」のまそたんの声を担当した伯山が、人間のキャラクターを演じるのは本作が初となる。「まそたんは完全に機械加工の声。僕じゃなくていいはずなのですが(笑)それでも最高にうれしい仕事でした。『未来のミライ』のロボットは、星野源さんが褒めてくれた“らしい”と聞いています。多分、言ってないと思うんですけれど」と冗談混じりで笑い飛ばすが、細田監督や樋口監督、そしてこだわりの強い塚原監督と、錚々たる監督陣からのオファーには理由があるはずだ。
「講談師が珍しいからじゃないですか(笑)。声という点では、多分、引っかかる声なんだと思います。ちょっとくぐもった独特のニュアンスがある声。今回であれば、荘太郎のミステリアスな部分と似ているように感じたのかと。僕の採用は博打だったと思います。技術的にはもちろんいろいろと不足しているけれど、声質としてはこの人の声で間違ってなかった、そんな空気はありました(笑)。緻密な作業を重ねて何年もかかって一生懸命作った作品を、最後、声を乗せる時に壊すことはできない。声質は合っていると思っていただいたことを頼りに、とにかく頑張るしかないという想いで挑みました」と荘太郎への覚悟も明かした。
ミステリーと聞いて伯山が思い浮かべるのは、松田優作主演のドラマ「探偵物語」と江戸川乱歩だ。「乱歩が好きなので『屋根裏の散歩者』『人間椅子』など、映画になっているものは観ます。乱歩ってすごく身近に感じるんです。文章が特別うまいわけでもないし、それが気持ち悪いのにすうっと入ってくるのがおもしろい。古典を読んでいるというよりも、身近な感じがしてすごく好きです。池袋には乱歩が年中お菓子を買いに来ていた三原堂もあるから、より身近に感じるのかと。講談にも探偵講談があるので、結構“探偵もの”は馴染みが深いんです。『探偵物語』はミステリーではないけれど、探偵のコメディみたいな感じがしてすごく好きです」と笑顔に。
荘太郎は、その活躍や彼の物語をもっと観たいと思わせる魅力的なキャラクター。大変だったアフレコ裏話を聞いたうえでも、ぜひともシリーズ化してほしい作品だ。「そういう声が出て、実現したらうれしいですよね。その時は本当に僕じゃなくてプロの声優さんが荘太郎をやってくれるのが一番だと個人的には思っています(笑)。もちろん、要望があれば僕のできる限りのことはやってみたいですが。すでに海外で賞を獲ったりしているので、あとはたくさんの人に観てもらって、評価だけでなく、観客動員の面でもいい反響があるといいなと願っています」。
取材・文/タナカシノブ
※塚原重義の「塚」は旧字体が正式表記