『クラユカバ』神田伯山がアフレコでみせたこだわりと並々ならぬ覚悟「一生懸命作られた作品を、声で壊すことはできない」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『クラユカバ』神田伯山がアフレコでみせたこだわりと並々ならぬ覚悟「一生懸命作られた作品を、声で壊すことはできない」

インタビュー

『クラユカバ』神田伯山がアフレコでみせたこだわりと並々ならぬ覚悟「一生懸命作られた作品を、声で壊すことはできない」

「2023年ファンタジア国際映画祭」長編アニメーション部門で観客賞・金賞を受賞した塚原重義が原作、脚本、監督の長編アニメーション映画『クラユカバ』(公開中)。私立探偵の荘太郎が集団失踪事件の謎を追い、“クラガリ”と呼ばれる地下世界に足を踏み入れる様子を唯一無二のレトロな世界観で描きだすミステリーエンタテインメントだ。

本作のパイロット版『クラユカバ:序章』(21)に引き続き、「最もチケットが取れない講談師」と言われる六代目神田伯山が、主人公である荘太郎の声優を務める。脇を固める装甲列車の指揮官タンネ役の黒沢ともよ、情報屋の少女サキ役の芹澤優らキャスト陣の演技も魅力だ。そこでMOVIE WALKER PRESSでは、人間役の声優を担当するのは初めてだという伯山へのインタビューを実施。アフレコ時の思い出や、自身が選ばれた理由などについて語ってもらった。

伯山が「謎のこだわりがあった」というアフレコ時の思い出を振り返る
伯山が「謎のこだわりがあった」というアフレコ時の思い出を振り返る撮影/黒羽政士

目撃者がなく、意図もわからない集団失踪事件が世間を惑わすなか、探偵の荘太郎は、足取りを辿ると浮かび上がる不気味な轍の手掛かりを探して、“クラガリ”と呼ばれる街の地下領域へ潜入する。そこで荘太郎は、装甲列車とその指揮官であるタンネと出くわし、運命を揺るがされる…。

「童心に戻ってしまう空気やレトロな絵柄が、非常にノスタルジーを感じさせます」

地下歓楽街”ミズノチマタ”を中心に勢力を広げる武装ギャング団、福面党
地下歓楽街”ミズノチマタ”を中心に勢力を広げる武装ギャング団、福面党[c]塚原重義/クラガリ映畫協會

本作の日本凱旋劇場公開決定時に「映画館で観るのが楽しみ」とコメントを寄せていた伯山は、映像の美しさとキャラクター、そして脚本のおもしろさに触れている。「小さいころは『暗がりに気をつけろ!』とよく言われたもの。映画の舞台のモチーフとなったのは東京都北区王子周辺で、僕は池袋出身なのですが、少し似たような雰囲気を感じました。僕が子どものころはバッシュ狩り、オヤジ狩り、ドラクエ狩りなど、いろいろ狩られまくっていて、外に出るのもちょっと緊張感があったんですよね。でも子どもながらに、ちょっと怖い“その先”になにがあるのかは気になっていて。僕はその一歩先に行くことはなかったけれど、子どもが自転車に乗って見たこともない場所に行ってしまった時、『親のいる世界に帰れるのかな』と不安になったりすることってあるじゃないですか。本作で描かれるのは人間の潜在的な恐怖を“探偵”というモチーフで見事に表現している物語と、その世界観。童心に戻ってしまう空気やレトロな絵柄が、非常にノスタルジーを感じさせます」。

パイロット版の時は、15分の尺に3時間を費やしたとアフレコの大変さを明かしていたが、本作の尺は64分。2度目となる荘太郎を演じるうえでの演技プランはあったのだろうか。「ノープランです(笑)。自分で演技プランを作る、というのはプロの考え方。僕は素人だから、いかにプロっぽくやろうと思ってもしょうがないし、できるわけもない。監督の作品なので、監督の指示に従うのが一番いいのかなと。まさに監督任せです」とニヤリ。

塚原監督へのリスペクトの想いを明かした伯山「やはり監督は職人だなと思いました。僕は職人が好き」
塚原監督へのリスペクトの想いを明かした伯山「やはり監督は職人だなと思いました。僕は職人が好き」撮影/黒羽政士

「僕のような素人を使ってどういうパターンができるのか。超絶プロの声優さんのなかに入ってどんな化学反応が起きるのか。監督も探り探りだったと思います」と塚原監督を慮りつつ、細かな指示を受けながらのアフレコだったと語る。「非常に細かかったのですが、それはすごくいいことだと思います。僕も何度も録り直したいタイプで、逆に一発OKが一番怖い。今回も時間の許す限り収録を重ねたので、いつブースから出られるのか、もしかしたら出られないかもしれない…なんて思いながらのアフレコでした」と振り返る。「『ん?』というセリフ一言で15回ぐらい録り直すんです。予想もしなかったような自分の引き出しに出会えることも新鮮でおもしろくて。僕も図々しくなって、監督OKが出ているのに『ちょっともう1回言ってみていいですか?』みたいな謎のこだわりなんかがあったりして(笑)。そのやりとりを通じて、やはり監督は職人だなと思いました。僕は職人が好きですし、後世に残る作品とはそういうもの。僕みたいな素人にはすごくありがたいやり方でした」と塚原監督のアフレコ方法に感謝していた。


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