綾辻行人が語る、ホラーシーンの変化と自身の原体験「幼少期に出会った“怖さ”は永遠」
全世界シリーズ累計670万部を超える、綾辻行人によるベストセラー「館」シリーズ。好奇心旺盛な大学生の江南(かわみなみ)孝明とミステリ好きな島田潔のコンビが活躍する第1作「十角館の殺人」が発表から37年を経て映像化され、Huluオリジナルのドラマとして独占配信中だ。
本作の配信にあわせ、綾辻へのロングインタビューが実現。長年“映像化不可能”とされてきた原作にあえて挑んだ実写化プロジェクトの舞台裏を明かした前編に続き、後編では業界屈指のホラーマニアとしても知られる綾辻が、自らの原体験から、昨今のホラー映画シーンに感じることまでを明かしてくれた。
「『ウルトラQ』には、モノクロだからこその古びなさがある」
――ご自身の“恐怖”観を形作った、原体験について伺えますでしょうか。
「触れた順に『ウルトラQ』、楳図かずお、江戸川乱歩です。『ウルトラQ』は小学校に上がる直前にリアルタイムで放送を観ていたのですが、いまだに原体験として強く刻まれています。10年ほど前に、デジタル技術でカラーライズされた総天然色版が発売されましたよね。あれはあれでうれしかったけれど、ちょっとチャチく感じるところもありました。モノクロだからこその古びなさというのはあって、放送当時のバージョンはいま観てもいいですね」
――幼少期にそうした作品と出会ったことが、いまでも原体験として刻まれているんですね。
「子どもの頃に出会った“怖さ”というのは永遠なんですね。新しい作品に触れて育った若い人たちが『ウルトラQ』を観ても、たぶんそんなに刺さらないのでしょうけど、直撃を受けた僕にとっては価値観の根底とも言える体験です」
――江戸川乱歩作品からは、ミステリとしての影響が強いのでしょうか。
「江戸川乱歩も最初は怖いものとして読んでいて、そこから次第にミステリの世界に引き込まれていったという感じでした。そんなだから、自分はミステリとホラーの両方を書いているんだと思います」
「清水崇監督は制約のなかでもおもしろいものを撮っていて、流石だなと思います」
――以前、牧野修先生と「ナゴム、ホラーライフ 怖い映画のススメ」(※2009年に書籍化)という、ホラー映画について語り合うリレー連載をされていましたね。
「はい、よく覚えてらっしゃいますね(笑)」
――連載からおよそ15年が経過したわけですが、昨今の印象的なホラー映画や監督を教えてください。
「ここ数年で一番グッときたのは、台湾映画の『哭悲/THE SADNESS』。よくこれを公開したなと思うほどのゴア描写で…。ブルーレイで観たのですが、ボカシも入っていなくて最高でした。作家に目を向けると、アレクサンドル・アジャ監督をはじめ、ダリオ・アルジェント監督の影響を受けたであろう“アルジェント・チルドレン”たちや、新世代の監督がどんどん出てきていますね。ジェームズ・ワン監督も良い作品を作っていると思います。ただ、人気の『死霊館』シリーズはあまり怖くなくて非常に食い足りない(笑)。そう思っていたら、『マリグナント 狂暴な悪夢』はすばらしくて、大喜びしました」
――国内のホラー映画についてはいかがでしょうか。
「最初のVシネマ版『呪怨』以来ずっと清水崇監督の作品が好きで、全作観ています。最新作の『ミンナのウタ』も先日パッケージを購入して拝見して、すごくおもしろかった。さまざまな制約のなかであのような作品を撮るのは相当に難しい仕事だったと思うんですが、流石だなと思いました。『呪怨』のセルフパロディのようなところも目立つけれど、本家がやるからこそおもしろいし、ちゃんと怖いんですよね」
「どこから出てきたとしても本物は本物。若い作家の活躍はうれしいです」
――近年、ホラーシーンではYouTube発のヒットが続いています。先生ご自身は投稿されている動画をご覧になったりしますか?
「パートナーの小野不由美さんが実話怪談や心霊動画好きなので、影響されて僕もそれなりに観ます。2023年のお正月に『フェイクドキュメンタリー「Q」』が更新されているのを発見して、二人揃って観たのが(シーズン2の第1回である)『ノーフィクション』。新年早々すごいものを観てしまった…と衝撃でした」
――小野不由美先生もご覧になっているのですね。
「小野さんは中村義洋監督の大ファンで、『ほんとにあった!呪いのビデオ』も全巻揃えて観ているんです。『フェイクドキュメンタリー「Q」』を観て気になった寺内康太郎監督の作品について尋ねたら、『「心霊マスターテープ」はおもしろいよ。寺内くん頑張ってるよ』なんて教えてくれたり(笑)。寺内監督の作品だと、『心霊マスターテープ2 〜念写〜』がとても好きです」
――ホラー小説の世界でも、ネット発のベストセラーが毎年のように生まれていますね。
「新しいクリエイターが出てくるためのウィンドウが増えましたね。『近畿地方のある場所について』が小説投稿サイトから生まれたり、『変な家』が動画をきっかけに大ヒットしたり。忘れてはいけないのが、どこから出てきたとしても本物は本物なんだということ。若い作家の登場と活躍はうれしいことです。そのようにしてホラーシーン全体が、より盛り上がっていってほしいと願っています」
取材・文/近藤亮太