第2回新潟国際アニメーション映画祭、グランプリはカナダ作品『アダムが変わるとき』が受賞!傾奇賞の岡田麿里は「答え合わせができた」と感謝|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
第2回新潟国際アニメーション映画祭、グランプリはカナダ作品『アダムが変わるとき』が受賞!傾奇賞の岡田麿里は「答え合わせができた」と感謝

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第2回新潟国際アニメーション映画祭、グランプリはカナダ作品『アダムが変わるとき』が受賞!傾奇賞の岡田麿里は「答え合わせができた」と感謝

第2回新潟国際アニメーション映画祭のクロージングセレモニーが3月20日に新潟市民プラザホールで開催され、各賞が発表された。グランプリに輝いたのは、カナダのジョエル・ヴォードロイユ監督による『アダムが変わるとき』。同映画祭ならではのユニークな賞「傾奇(かぶく)賞」は、岡田麿里監督の『アリスとテレスのまぼろし工場』(23)が受賞した。

グランプリ受賞に感激しきりのジョエル・ヴォードロイユ監督
グランプリ受賞に感激しきりのジョエル・ヴォードロイユ監督

新潟国際アニメーション映画祭は、世界で初となる⻑編アニメーションを中心とした映画祭。今年の長編コンペティション部門には、昨年の倍以上となる29の国と地域から49作品が集まり、12本がノミネート。審査員長は、世界的アニメーションスタジオ・カートゥーン・サルーンのノラ・トゥーミー。審査員を「スタジオ地図」代表取締役プロデューサーの齋藤優一郎、カナダ国立映画制作庁(NFB)で長年、多くのアニメーション制作に携わってきたマイケル・フクシマが務めた。

『アダムが変わるとき』のジョエル・ヴォードロイユ監督。初めての長編映画だという
『アダムが変わるとき』のジョエル・ヴォードロイユ監督。初めての長編映画だという

グランプリを受賞した『アダムが変わるとき』は、周りの人たちからの嘲笑や否定的な発言で、身体が変化するという奇妙な特異性を持つティーンエイジャー、アダムの人生を描いた作品。審査員長のトゥーミーが「グランプリは、観終わった後もずっと心に残る作品に贈ります。この作品は生きることのぎこちなさについて、とても深いなにかを語っている。本作の監督と彼のチームは、一見小さな出来事から魔法のようなドラマを生みだしました。ユーモアとやさしい心のバランスを取りながら、アニメーションの知識と技術力を駆使して、観客と登場人物とがつながることを可能にした」と称えたのち、グランプリ受賞作として本作の名前を読み上げた。

大きな歓声と拍手が上がるなか、感激して胸に手を当てながらステージに上がったヴォードロイユ監督は、「コンペティションの監督として選ばれたこと、この場に来て多くの人々に出会えたこと、他のコンペの監督に会ってお話ができたこと。それだけで十分な贈り物だと思っていた」としみじみ。「この作品がいまここに存在できているのは、私が多くの才能ある人々に巡り会えたことに他なりません」とチームに感謝を伝えた。

『アリスとテレスのまぼろし工場』の岡田麿里監督
『アリスとテレスのまぼろし工場』の岡田麿里監督

「傾奇(かぶく)賞」は、従来の価値観に捉われず、斬新で新しいものに挑戦し創造していく作品に与えられるもの。受賞作となった、変化を禁じられた町で暮らす少年少女の恋する衝動が世界を壊す様を描いた長編アニメーション『アリスとテレスのまぼろし工場』について、トゥーミーは「私たちはこの賞を、非常に美しいアニメーションに贈ります。負った傷を乗り越えてさらに大きく成長することとはなにか。それを詩情豊かに表現することによって、大人への成長譚というジャンルを新たな高みへと昇華させた」と評価。「このようなすばらしい賞をいただきまして、本当にありがとうございます」と心を込めた岡田監督は、「この作品はスタッフが一丸となって、汗も鼻水も涙も垂らしながら、みんなで走り抜けた作品だと思っています。このような賞をいただけたことで、みんなの熱意に答え合わせができたような、本当に幸せな気持ちです」と熱意の結晶だと語った。

笑顔でフォトセッション!
笑顔でフォトセッション!

さらにアニメーションの世界に進化を与える作品に与えられる「境界賞」は、ジェレミー・ペラン監督の近未来を舞台にした『マーズ・エクスプレス』。奨励賞は、ジム・カポビアンコ/ピエール=リュック・グランジョン監督によるレオナルド・ダ・ヴィンチの人生と時代にインスパイアされたユーモラスな物語『インベンター』が受賞。またこの日は、「大川博賞」「蕗谷虹児賞」の授賞式も行われた。

『映画大好きポンポさん』の松尾亮一郎プロデューサー、トロフィーを手にした
『映画大好きポンポさん』の松尾亮一郎プロデューサー、トロフィーを手にした

「大川博賞」と「蕗谷虹児賞」は、2023年を第1回として、毎年アニメーションの技術職のスタッフ、企業・スタジオを選出してその業績を顕彰するもの。「大川博賞」は、平尾隆之監督の『映画大好きポンポさん』(20)を手掛けたアニメーション制作スタジオCLAPが受賞。プロデューサーの松尾亮一郎は「こういった場で評価をいただけたことは、励みになります。もしよかったらCLAPという名前をこの機会に覚えていただいて、また映画館でお会いできたらうれしい」と笑顔を見せていた。

そして「蕗谷虹児賞」は、岡田麿里監督の『アリスとテレスのまぼろし工場』(23)で美術監督を務めた東地和生、宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』(公開中)で作画監督を務めた本田雄、原恵一監督の『かがみの孤城』(22)で脚本を務めた丸尾みほの3名に贈られた。東地は「背景美術というのはたくさんのスタッフがいて、私は指揮者でひとりひとりの演奏があって初めて成立するものです」とオーケストラに例えながら、スタッフにお礼を述べた。「『アリスとテレスのまぼろし工場』は光と影の表現について、さらに踏み込んだ表現として、キャラクターの影と、背景の影を合わせることに焦点を置いて制作しました。作画監督の石井百合子さんをはじめとするスタッフたちの力が寄り添ってくれたからこそ、実現したもの。蕗谷虹児さんがまいたと思われるバトンは、脈々とアニメーションスタッフが受け継いでいる。私も次の若い世代に渡す時がいずれくると思う。手元にあるうちは、全力で作品をつくっていきたい」と力強く誓っていた。

【写真を見る】『君たちはどう生きるか』で作画監督を務めた本田雄、「きっとまた次回作があるんだと思います」と語り会場を笑わせた
【写真を見る】『君たちはどう生きるか』で作画監督を務めた本田雄、「きっとまた次回作があるんだと思います」と語り会場を笑わせた

『君たちはどう生きるか』の本田は、「宮崎さんの、これが最後だという覚悟のもとできたアニメーション映画」と宮崎駿監督の意気込みを感じていた様子で「机を並べて一緒に仕事をした時には、緊張感のある現場でした。宮崎さんの意志を継ぐというわけではないけれど、できるだけ宮崎さんの意向に沿ったものにしようと思っていました。7年かけただけあって、終わった後は、感激と共に寂しい感じがして。感慨深い作品となりました」と特別な作品になったという。「宮崎さんも最後の覚悟で作ったのは間違いないんですが、きっとまた次回作があるんだと思います」と会場を笑わせながら、「その時はまた、僕もぜひ力になれたらと思っています」と清々しく宣言していた。『かがみの孤城』の丸尾は、「本作は海外で上映していただく機会に恵まれた。日本と同じように、どこの国でも居場所のない子どもたちが少なからずいることを知りました。映画を観たからといってなにかが解決するということは難しいと思いますが、仲間がいて助け合えるということは大きな力になると思います」と映画の内容に触れながら願いを込め、拍手を浴びていた。

審査員長のノラ・トゥーミー「異なった才能を持った3人が集まったから、グランプリが特別なものになった」と審査員のメンバーに感謝
審査員長のノラ・トゥーミー「異なった才能を持った3人が集まったから、グランプリが特別なものになった」と審査員のメンバーに感謝

審査員長のトゥーミーは、審査員のメンバーや参加したクリエイター、運営を支えたスタッフや映画祭を訪れた観客などたくさんの感謝を伝えながら、受賞者に対して「皆さんの作品は、アニメーションの未来に希望をもたらすもの」とメッセージ。上映作品のチームにも「新潟国際アニメーション映画祭で皆さんの作品が上映され、観客と一緒に楽しむことは格別な体験。皆さんの作品にはさまざまなストーリーや文化、キャラクターたちが登場し、不思議な世界を冒険するもの。すばらしい映画をありがとうございます」と敬意を表しつつ、「本映画祭は開催からまだ2年目ですが、すでに映画制作者と世界中の観客に、新潟の映画祭は創造性と文化のつながりをもたらす存在としてしっかり認識されています。すでに来年の映画祭がとても楽しみ」と期待を込めた。フェスティバル・ディレクターの井上伸一郎も「第1回に比べて遥かに多い観客を動員することができた。この熱気を新たな年につなげていきたい」と次回開催への意欲をにじませつつ、閉幕を告げていた。


第2回新潟国際アニメーション映画祭は、3月15日(金)から3月20日(水)まで6日間にわたって開催された。

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