アイアンマン、シャーロック・ホームズだけじゃない!唯一無二の演技派、ロバート・ダウニー・Jr.の軌跡
薬物、アルコール依存を周囲に支えられながら乗り越えていく
個性派、演技派として地位を築いたダウニー・Jr.だが、私生活は荒んでいた。5歳の時に父の監督作『Pound』(70)でデビューしたダウニー・Jr.は、それからまもなくワインやマリファナに手を出していく。父はドラッグ愛好者で母はアルコール中毒と、そちらの面でもダウニー家は“いかにも”な芸能一家だったのだ。
90年代半ば頃には撮影にも支障を来すようになったダウニー・Jr.は、1996年に薬物の不法所持で逮捕。2001年にも同じ罪で逮捕され、仕事を離れリハビリ施設に入ることになった。そんな彼を支えたのは、映画プロデューサーの妻スーザン・ダウニーら家族の存在だったという。施設から出たダウニー・Jr.は、メル・ギブソン製作・出演の『歌う大捜査線』(03)に主演しスクリーン復帰。『キスキス,バンバン』や『ゾディアック』などでしだいに評価を高めていった。
『アイアンマン』、『シャーロック・ホームズ』の大ヒットでトップスターの仲間入り!
そんなダウニー・Jr.にとって一大転機となったのが、アイアンマンことトニー・スターク役のオファーだ。スタジオ側は彼の出演を拒んでいたが、監督のジョン・ファブローはダウニー・Jr.の起用を譲らず、最後はスタジオ側が折れたという。そして2008年公開の『アイアンマン』は大ヒットを記録。ダウニー・Jr.は劇中のトニー同様V字回復を遂げ、トップスターの仲間入りを果たした。
『トロピック・サンダー 史上最低の作戦』(08)で2度目のアカデミー賞ノミネート(助演男優賞)を果たしたダウニー・Jr.は、続いて『シャーロック・ホームズ』(09)でゴールデン・グローブ賞主演男優賞(ミュージカル・コメディ部門)を受賞。彼が演じた麻薬が手放せないトリッキーな武闘派探偵ホームズはアイアンマンと並ぶ当たり役となり、続編『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』(11)も製作された。
卓越した演技力と役への真摯な姿勢を見せた『オッペンハイマー』
その後は「アベンジャーズ」シリーズなどマーベル作品を中心に活躍していたダウニー・Jr.が、久しぶりに取り組んだシリアスドラマが『オッペンハイマー』だった。彼が演じたストローズは、オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)と対立するいわば敵役。実在の人物を演じるのは『ゾディアック』以来のことである。
マンハッタン計画を率いたオッペンハイマーの道のりを描いた本作だが、ドラマ的にはオッペンハイマーとストローズの確執が見せ場になっている。ストローズ本人に似せるため額を剃り上げたダウニー・Jr.は、敬意を抱いていたオッペンハイマーに敵意を向け、やがて失脚をもくろむ策士を怪演。物静かな外見とは裏腹に複雑な感情を抱えた役を演じきり、念願のオスカーに輝いた。
アカデミー賞授賞式のスピーチで「獣のような自分を保護し、蘇らせてくれた名獣医」と妻を称えたダウニー・Jr.。2010年代は出演作を絞り、マーベル作品以外はゲスト枠に仕事を減らしたその裏には、苦難の時を支えてくれた家族との時間を大切にしたいという思いがあったという。波乱の時代を乗り越え、俳優として、人として新たな高みに到達したロバート・ダウニー・Jr.は、これからなにを見せてくれるのか。次なる挑戦を楽しみにしたい。
文/神武団四郎