『リバウンド』で実在のコーチを熱演!個性派俳優アン・ジェホンが放つ唯一無二の存在感
キャラクターとの見事な一体感で作品によって印象が変わる
映画でも『操作された都市』『王様の事件手帖』(ともに17)といったメジャー作品から、ホン・サンス監督の『夜の浜辺でひとり』(17)、『草の葉』(18)、新人監督による独立映画『小公女』(17)のような文芸作まで様々な作品に出演。2020年は奇想天外な方法で動物園を再建する弁護士に扮した『シークレット・ジョブ』に主演し、お得意のとぼけた持ち味を発揮した。荒廃した世界を舞台にした『狩りの時間』(20)では犯罪に手を染める若者といういままでにない役柄を、短く刈り込んだ髪を金色に染めて演じイメージを一新している。
ただ、アン・ジェホンならどんな役でもこなせるだろうから、何を演じても驚かない。そんなふうに思っていたところ、それでもびっくりさせられたのが「マスクガール」(23)のオナム役だった。顔を隠してネットでライブ配信をするヒロインが会社の同僚だと気づいて一方的な想いを寄せ、妄想を膨らませていくオナム。彼がやがて歪んだ欲望を爆発させる様子は不気味で生々しい。この役のために、再び10kg以上体重を増やしていただけでなく、薄毛のメイクに2時間以上費やしたと聞いて、演技への真摯な姿勢に頭が下がる思いになった。
『リバウンド』はそんなアン・ジェホンにとって3年ぶりの映画。本人が出演を切望したというだけあって、実在人物であるコーチの実際の姿とのシンクロ率の高さをはじめ、キャラクターとの見事な一体感を披露した。彼なくしては作品の成功はなかったと思わせる。なんと「マスクガール」と同時期に撮影していたそうで、その演技力の高さには脱帽するしかない。
最新ドラマ「タッカンジョン」(24)では再度イ・ビョンホン監督と組み、謎の機械によってなぜかタッカンジョン(鳥の唐揚げ)になってしまった片想いの相手を救うために奔走するベクジュンを演じた。うざくてヤバいヤツにも見えるものの、愛嬌があって憎めないというアン・ジェホン自身の持ち味のせいか、意外に愛すべきキャラクターになっている。
どの作品を観るかによって、アン・ジェホンに対する印象は違ってくるかもしれない。いずれにしても、彼がすばらしい俳優であることは誰もが認識できるはずだ。
文/小田 香