中森明夫が語る、『トラペジウム』の達成とアイドル文化の勝利。高山一実の経験が息づく、少女たちの輝き - 3ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
中森明夫が語る、『トラペジウム』の達成とアイドル文化の勝利。高山一実の経験が息づく、少女たちの輝き

コラム

中森明夫が語る、『トラペジウム』の達成とアイドル文化の勝利。高山一実の経験が息づく、少女たちの輝き

目を見張る…東西南北の美少女が歌って踊る姿

トラペジウム」がアニメ映画になると聞いて、私は危惧を持った。アイドルを主題としたアニメ作品では近年「推しの子」が大ヒットしている。しかし、それは同題の人気マンガが原作だ。絵としてのキャラクターがあらかじめ存在する。他方、「トラペジウム」は小説なのだ。言葉のみによって作られている。それを絵にして動かすことは大変なことだろう。

しかも、一人称の物語だ。映像作品に一人称の表現は存在しない。実のところ「トラペジウム」の最大の魅力は、アイドル志望の少女の内面、心の内を一人称で語ったところにあるのだから。

アニメ映画版『トラペジウム』を観た。感動した。東ゆうは、このような顔をして、このような声でしゃべり、このようなファッションと仕草で、このように歌い踊るべきだったのだ……と目を見張る。西、南、北の女の子も同様だ。「ぼっち・ざ・ろっく!」「SPY×FAMILY」を手掛けたスタジオCloverWorksの制作だ。当然、技術的には一級品である。

忙しいなか、過酷なレッスンもこなしていく
忙しいなか、過酷なレッスンもこなしていく[c]2024「トラペジウム」製作委員会

いや、しかし、それだけではない。原作者・高山一実が脚本から音楽まで全面的に協力したという。高山は優れた小説家であるのみではなく、日本で人気ナンバーワンの女子アイドルグループ・乃木坂46の創設時から10年間も活動した、トップアイドルなのだ。そんな彼女の体験から得た知見や美意識や息づかいや、何よりその情熱がこの映画には吹き込まれている。

ことに小説版では見ることも聴くことも叶わなかった、アイドル東西南北の少女たちが歌い躍るステージのシーンは圧巻だ! これこそアニメ『トラペジウム』のみの魅力であり、輝きである。

ヘトヘトになりながらも充実した日々を送っている、そう思っていた
ヘトヘトになりながらも充実した日々を送っている、そう思っていた[c]2024「トラペジウム」製作委員会

「トラペジウム」の意味が原作者、高山一実と重なる

ところで、「トラペジウム」とは何だろう?小説にも映画にも、その説明はない。そこで小説を読んだ30万人の読者たちは、みんなググったはずだ。すると……。

トラペジウム(trapezium)
①不等辺四辺形。どの二つの辺も平行でない四角形。②オリオン星雲のなかにある四つの重星。

へぇ〜、と思った。不ぞろいの四角形であると同時に、四つの重なる星。すごい!あまりにも出来すぎている。これは誰か編集者か、プロデューサー(秋元康?)の入れ知恵なんじゃないか、と私は疑った。

ところが……。文庫版「トラペジウム」のあとがきを読んだら、作者自身の高校時代の仲間たちについて書いていた。卒業後、OLや古文の教師、テレビ局の政治部に勤める3人の女子たちと、アイドルになった彼女の10年間について。

ああ、そうか、自身を含む4人の仲間たちの経験がこの物語のタイトルへとまっすぐ繋がっていたのだな(先の邪推を私は恥じる)。そう、高山一実は自分自身の「トラペジウム」を生きたのだ。

これからという時にグループは瓦解してしまう…
これからという時にグループは瓦解してしまう…[c]2024「トラペジウム」製作委員会

アイドルという光る人間を見て、憧れた少女がいた。そうして自身も光に化身した。やがて彼女はその光を素晴らしい物語に封じ込めた。それから6年を経て、その物語は声と姿を得て、いま、アニメ作品として歌い、踊り出した。その光は、さらなる次の世代の少女たちを憧れさせ、新たな光を生むだろう。

6年前、本の冒頭でアイドル評論家の頬を平手打ちした、東ゆうよ……。
いや、その物語の背後にいた、高山一実よ。

どうして「トラペジウム」の達成を、<アイドル文化>の勝利と呼んではいけない理由があるだろう?


文/中森明夫


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