『破墓 パミョ』『ソウルの春』「ムービング」が躍進!第60回百想芸術大賞授賞結果&名スピーチを紹介
5月7日に第60回百想芸術大賞が開催された。アニバーサリーイヤーの今年も、韓国エンタメを盛り上げた選りすぐりの映画、ドラマ、演劇の関係者と俳優陣、クリエイターがソウルのCOEXホールに集結した。
『破墓 パミョ』が4冠!新人男優賞イ・ドヒョンもサプライズ登場
映画部門では、『破墓 パミョ』と『ソウルの春』(8月23日公開)という“千万興行”の二本が賞を競う中、ポテンシャルの高い作品が食い込む形となった。まず授賞式で注目を集めたのは『破墓 パミョ』。俳優人生で一度しか与えられない新人男優賞に輝いたのはイ・ドヒョンだった。現在、兵役義務履行中のため出席できるかどうか関係者もぎりぎりまで分からなかったイ・ドヒョンの登場は、実に嬉しいサプライズだった。
空軍軍楽隊の制服で「受賞の感想を考えていませんでした…!」と慌てふためく姿が微笑ましい。まず共演したチェ・ミンシク、ユ・ヘジン、キム・ゴウン、チョン・ジェヒョン監督に感謝を伝えた後、演じたムーダンのホンギルについてビハインドを明かした。
「監督がホンギル役に私を推薦してくださったのですが、すごくセリフも多くて大変でした。世の中に簡単な演技はないと思う私にとって大きな挑戦であり、チャンスだと思って絶対にうまくやりたいと頑張りました。でも、次はもっとうまくやりますよ、監督!今年、百想芸術大賞は還暦だそうですね。喜寿になる時は私は40歳。その時は最優秀演技賞に挑戦できるように頑張ります。また軍人として兵役義務に最善を尽くし、来年5月にお会いしましょう」と期待を残した。そして父と母、愛犬への感謝に続き、少し緊張しながらも「それから…ジヨン、ありがとう」と、公開恋愛中のイム・ジヨンに真心を伝えた。彼が直接恋人に言及したのは今回が初めてで、客席は一層盛り上がった。
さらに『破墓 パミョ』で巫女ファリムを演じたキム・ゴウンが、映画部門主演女優賞を獲得した。「恋はチーズ・イン・ザ・トラップ」でのTV部門新人女優賞以来8年ぶり二度目の栄光だが、並いる名優を抑えての受賞だけに喜びもひとしお。「『破墓 パミョ』のことを考えると、本当に現場が楽しかったことが思い出されます。実は昨年、個人的には本当に大変で苦しい1年でした。でも本当に幸いなことにとても幸せな現場に出会えて、癒しになり、楽しかったです。いつも感謝する気持ちで仕事をしているんですが、この撮影現場を通して一層感謝を感じることができました。“ミョベンジャーズ”(『破墓 パミョ』とアベンジャーズを掛け合わせた造語)、とても感謝しています」と声を震わせた。共演者のチェ・ミンシクが彼女に向ける暖かな眼差しも良かった。
幕間では“キム・ゴウンのそっくりさん”として時の人となったタレント、イ・スジがファリムの物真似を披露し、キム・ゴウン本人も爆笑するなど愉快な掛け合いも見せた。さらにチョン・ジェヒョン監督も監督賞に輝き、音響監督の芸術賞を合わせて4冠を制した。
『ソウルの春』が映画部門大賞に!ファン・ジョンミンの感動スピーチ
『ソウルの春』も爪痕を残した。主演男優賞に輝いたのは、クーデターを決行し独裁政権を画策するチョン・ドゥグァン保安司令官に扮したファン・ジョンミン。韓国の暗黒時代を象徴する独裁者・全斗煥元大統領をモチーフにしている。意外にも百想芸術大賞では初受賞だ。MCシン・ドンヨプ曰く、米アカデミー賞で長く受賞が無かった名優に肖り“百想のディカプリオ”も呼ばれていたという。難役を演じ切っての悲願達成だ。監督、ヘアメイクらスタッフ、関係者に続き「映画の中では正反対の立場にいたが、2人といない私の映画仲間であり、とても愛しているチョン・ウソンさん」と、本作で高潔な軍人を演じたチョン・ウソンに対し、『アシュラ』(16)で結んだ絆を感じさせる愛情を伝えた。
さらに「すべての方が勇気が必要な作業でしたが、キム・ソンス監督が私たちに勇気を起こさせてくれて完成しました。本当にタイミングが悪かった時期でしたが、それでもこの映画を愛してくださった観客の皆さんの大きな勇気が今、私にこうした素晴らしい賞を授けてくださったのだと思います」と続けた言葉に、『ソウルの春』 という作品に傾けた強い信念を感じる。最後に「サムカンパニーの代表であり、妻であり、永遠のパートナーであり、一番の親友であるキム・ミヘさん。とても愛してる。ありがとう」と声を震わせ、もらい泣きを誘う感動のスピーチとなった。
映画部門大賞のプレゼンターとして姿を現わしたのは、昨年『別れる決心』(22)で受賞したパク・チャヌク監督。2023年は海外でドラマを撮影していて韓国での主要映画祭に参加できなかったため、待望の登場だ。そんなパク・チャヌク監督が「若い監督が多い韓国映画界で私より年配の監督は珍しいのですが、この名前を呼ぶことができて本当にうれしいです」と満面の笑みで発表したのが、『ソウルの春』キム・ソンス監督だった。
パク・チャヌク監督としっかり抱き合ったキム・ソンス監督は、スタッフや俳優陣への感謝に続けてこう語った。「最近、韓国映画が少し持ち直して、また劇場に観客の皆さんが来てくれています。 私は映画界を代表する立場にいるわけではありませんが、あえて言うなら、私を含めて韓国映画を作る我々がもっと一生懸命、もっと楽しく映画を撮れるように努力します」と、自分たちの成功を喜ぶのみならず韓国映画界の士気を上げるスピーチで締めくくった。
GUCCI IMPACT AWARDS賞『君と私(原題)』が描くセウォル号事故の傷と再生
百想芸術大賞は、喜びだけでなくエンターテイナーたちが悲しみを分かち合い連帯する場でもあったことにも触れておきたい。GUCCI IMPACT AWARDS賞を受賞したのが、チョ・ヒョンチョル監督『君と私(原題)』だ。キム・シウン扮する、セウォル号事故でクラスメイトを失った女子高生が絶望の中から再び光を取り戻そうとしていく再生の時間を描く。
「今年、セウォル号事故から10年が経ち、誰かの記憶の中ではすでに忘れられつつありますが、まだ春が来るだけで心が痛む方がいるということを皆さんに覚えておいてほしいです」と、穏やかながら強い意志を持った口調で語ったチョ・ヒョンチョル。「D.P.」第一シーズンで、優しい性格ゆえにいじめで心を壊し、重大事件を起こしてしまう脱走兵を演じた彼の言葉だけに一層重いものを感じた。日本でも観られる日が来ることを願う。