リプリーがいっぱい!アラン・ドロン、マット・デイモン、アンドリュー・スコットら演技派大集合

コラム

リプリーがいっぱい!アラン・ドロン、マット・デイモン、アンドリュー・スコットら演技派大集合

等身大の青年らしさに潜む、狡猾さ、鋭さを表現したマット・デイモン

ドロンのリプリー役は“伝説”となったわけだが、そこに再度チャレンジしたことで大きな話題になったのが、1999年の『リプリー』だった。ここでリプリー役を任されたのは、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)、『プライベート・ライアン』(98)と主演作が立て続けに高評価を受け、キャリアが絶好調を迎えていたマット・デイモン。ドロン版に比べ、人懐っこい性格で相手の心を開くアプローチがデイモンらしかった。公開当時、ライトグリーンの水着姿が「ちょっとダサい」と評されたりもしたが、等身大の青年に潜んだ、狡猾さ、鋭さでキャラクターのコントラストを放つあたりが、ドロン版との印象の違いかもしれない。この作品では、ディッキー役、ジュード・ロウのイケメンぶりが注目を集めた。

マット・デイモンがリプリーを演じる『リプリー』
マット・デイモンがリプリーを演じる『リプリー』[c]Everett Collection/AFLO

デニス・ホッパー、ジョン・マルコヴィッチら個性派もリプリーに

トム・リプリーの映画では、これら2作が有名だが、ハイスミスの小説にはリプリーを主人公にしたものが全部で5冊ある。そのなかで「リプリーズ・ゲーム」は2回映画化されている。贋作の絵画で稼いでいたリプリーが、殺人依頼を受け、別人に罪を着せようとする物語。1回目はヴィム・ヴェンダース監督の『アメリカの友人』(77)で、リプリー役はデニス・ホッパー。リプリーの狂気を前面に押し出した怪演をみせた。2回目の『リプリーズ・ゲーム』(02)ではジョン・マルコヴィッチが、いかにも彼らしい捉えどころのない怪しさで、したたかな策士のリプリー像を創出。作品全体も格調高いサスペンスに仕上がっている。

デニス・ホッパーがリプリーの狂気を前面に押し出した『アメリカの友人』
デニス・ホッパーがリプリーの狂気を前面に押し出した『アメリカの友人』[c]Everett Collection/AFLO

さらにもう一本、ハイスミス原作の「贋作」を映画化した『リプリー 暴かれた贋作』(05)では、バリー・ペッパーがリプリー役。『グリーンマイル』(99)での冷酷な刑務官役などで有名なペッパーが、ほかのリプリー俳優に比べてクールさに徹して演じ切った印象だ。


ジョン・マルコヴィッチがリプリーの捉えどころのない怪しさを表現した『リプリーズ・ゲーム』
ジョン・マルコヴィッチがリプリーの捉えどころのない怪しさを表現した『リプリーズ・ゲーム』[c]Everett Collection/AFLO

このようにトム・リプリーは演技巧者、個性派と呼ばれる俳優たちにとって、自身の実力が試されるゆえに本能をくすぐるキャラクターであることがよくわかる。最新作でのアンドリュー・スコットを観る際に、過去の“リプリー俳優”とのアプローチの違いをチェックすれば、新たな発見と共に、より深くリプリー、および作品の真髄に迫ることができるだろう。

文/斉藤博昭

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