草なぎ剛の新たな当たり役…『碁盤斬り』で魅せる清廉潔白な武士の陰陽が圧倒的
草なぎ剛との親和性が高い柳田格之進のキャラクター
演じるすべての役が唯一無二。そんな草なぎにとって、新たな当たり役となったのが、『碁盤斬り』で演じた柳田格之進だ。もとは彦根藩で進物番の役職に就いていた武士であったが、身に覚えのない罪を着せられたうえに妻も亡くし、藩を離れたという苦しい過去を背負っている。5年前から、一人娘の絹(清原果耶)と共に江戸の貧乏長屋で暮らし、自身は篆刻、娘は仕立ての内職でなんとか生計を立てているという設定だ。囲碁の達人でもあり、浪人になったいまでも、武士としての誇りを大切に生きている格之進は高潔な人柄で知られ、碁会所では「先生」、近所からは「お侍さん」「お武家さま」と呼ばれている。
格之進の内面の気高さは、囲碁の打ち方からも、そこはかとなく感じられる。本作には格之進が囲碁の対局をするシーンが多く登場するのだが、彼はいつも姿勢がよく、人差し指と中指で石を挟んだ指先までピンとまっすぐに伸びていて美しい。対局の相手が焦ったり、悩んだりしながら打つのとは対照的に、格之進の常に穏やかな表情からは、優勢なのか劣勢なのかはわからない。ただ、その佇まいには確かに相手を追い込んでいくような圧力があり、囲碁のルールをまったく知らない人が見ていても、彼が強いことがわかるのだ。
清廉潔白な格之進を慕い、恨みもする周囲の人々
格之進との囲碁を通して、その人柄にすっかり惚れ込んでしまうのが、質両替商の主人、萬屋源兵衛(國村隼)。初対面の時の源兵衛は、自分の囲碁の強さを誇示するかのように居丈高な態度をとっていたのだが、自分よりはるかに高いレベルの力を持つ格之進が「世知辛い世の中だが、囲碁だけは正々堂々と嘘偽りなく打ちたい」と静かな口調で話す言葉に、深く感じ入る。碁会所で出会った格之進と源兵衛が、季節が移り変わるなか、対局を重ねるにつれ、身分を越えて打ち解けていく様子には心が温かくなる。
一方、囲碁にも表れる格之進の清く正しくまっすぐな生き方を嫌悪するのが、かつての同僚でもあった柴田兵庫(斎藤工)。自分も囲碁には自信があるのに、格之進には勝てないことから、格之進に対して強い恨みを抱くようになっていく。清廉潔白という長所は、裏を返せば、頑固で融通が利かないという短所にもなる。格之進という1人の人物の気質を好む者もいれば、憎む者もいるという世の中の現実を、囲碁の対局シーンを通して鮮やかに描いているところが本作の見どころの一つだ。