『ミッシング』吉田恵輔監督×石原さとみが対談。「役者として、一番いい壊し方ができた」
「嫌なプレッシャーを感じたりしたら、本当の意味で役者になったってこと」(吉田)
――撮影時期でいうと今回の『ミッシング』が石原さんにとって休業明け1作目の作品となったわけですけど、休業中に「やっぱり私は演じることが好きなんだな」みたいな思いが募ったりしていたのでしょうか?
石原「好きかどうかみたいな感覚ではなくて、休業前にはもう脚本をいただいていたので、この役をやらなきゃいけないんだっていう不安や恐怖のほうが大きかったです。ただ、これまでは仕事のことを考えてほかの作品を観ることが多かったんですけど、休業中はただの観客として映画を観ることができて、それはとても良かったです。妊娠中は自宅でよく映画を観ていて、そこで『ああ、映画っておもしろいな』と映画にのめり込むって体験が初めてわかったというか。最近は映画の雑誌を読んだり、ネットで映画評を読んだりするのも楽しくて(笑)」
――今回の『ミッシング』を観終えた瞬間に本音として思ったのは、吉田監督作品や石原さとみさんの出演作をこれまでずっと観てきた立場からも、膨れ上がった期待に完璧に応えてくれるすばらしい作品だったんですけど、なんというか…ちょっと心のバランス的に、せめてもう1作、今度はもうちょっと幸せそうな主人公の作品を観てみたいなっていう(笑)。
石原「やりたいやりたいやりたい!」
吉田「じゃあ、今度はリアルな石原さとみに寄せて港区を舞台に?(笑)」
石原「いいですね! すごく現実的なやつをやりたい(笑)」
――(笑)。吉田監督が石原さんともしやり残したことがあるとするなら、どういう作品でしょう?
吉田「正直なことを言うと、今回はかなりやり切れたと思っていて。最初に会った時、石原さんは『変わりたいんです』『石原さとみを壊したいんです』って言っていて、そういう意味では一番いい壊し方ができたなと思ってる。だから、それをさらに壊すってなると、多分、もっと歳を取ってからなのかもしれない」
――それだけ達成感があるってことですね。
吉田「達成感はあります。だから、もっと歳を取って、10年後とかに…」
石原「10年!?先すぎないですか!?」
吉田「でも、その役者さんの普段のいいところを撮るって、結構難しいんですよ。一度そういういじり方をしちゃうと、次の作品が難しくなっちゃうし、そもそも本来持ってるキャラクターをさらにパワーアップさせるのって、どこかに無理が生じる」
――なるほど。
吉田「今回の『ミッシング』もね、石原さんつらいシーンが多くて結構きつかったと思うんだけど、例えば終盤にある、セリフはないけど光の中にいるだけの画のシーンとか『うん、やっぱり石原さとみって綺麗なんだな』って思って。そういう意味では、普通の作品だと撮りやすいんですよ。画にならならないところも画になっちゃうから。だから、それ以外のシーンはなるべく画にならないように、なるべく綺麗にならないように撮ろうと頑張ったけど、そうすると、綺麗でもいいシーンの時は、もう手に負えないくらい美しくなっちゃうの」
――でも、石原さん的にはもうすぐにでもまた?
石原「来年とかどうですか? いや、本当に今作での経験って、私にとってはすごく宝物なんですよ。この作品で得た学びが。だから、早くこの宝物の箱をまた開けたいんです。でも、それは10年後か…と思って(笑)。その10年以内に、違う監督に開けてもらうことができるんだろうかという不安が、いまはすごくあります」
吉田「まあ、もしそれで開かなかったら、またいろんなものが溜まったその10年間で、マグマみたいものが溜まってくるんだよ。そしたらそれをまた壊す甲斐があるし、逆にまったく違う解放のされ方をして『あれ?石原さとみさん、いまはこういうふうな見られ方してるな?』ってなっていたら、それをまた壊してあげたいなってその時は思うだろうし。『ミッシング』が公開されたら、きっとこれまでとは違うふうに見られるだろうから、ここからの数年がとても楽しみですね」
石原「そんなことを言われると、プレッシャーが」
吉田「でもさ、それが役者になるってことなんじゃないかな。時には嫌なプレッシャーを感じることもあるし、昔はもっと楽だったのにって愚痴を言ったりすることもあるかもしれないけど、それでようやく本当の意味で役者になったってことだとは思うから。そういう変化を遂げていくっていうこと自体、したくてもみんなができることではないわけだから。今後はそういうプレッシャーみたいなのものも楽しんだほうがいいですよ」
石原「いや、吉田監督には責任をとってほしいです。これからの私の10年の(笑)」
取材・文/宇野維正
※吉田恵輔監督の「吉」は「つちよし」が正式表記