紫色のもふもふから、動物のハイブリッド、映画屈指の名悪役に不気味なお人形まで…映画で描かれてきた個性豊かな“想像のお友だち”
内気な少年を支えるのは、なんとヒトラー(『ジョジョ・ラビット』)
イマジナリーフレンドは、友だちであると同時に、成長のため乗り越えないといけない存在として描かれることもしばしば。第二次世界大戦下のドイツを舞台に母親が家にユダヤ人の少女を匿っていることに気づいた少年の変化を描いていく『ジョジョ・ラビット』(19)もそんな1作だ。
本作で、気弱な少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイヴィス)のイマジナリーフレンドは、敬愛するヒトラー(タイカ・ワイティティ)だ。立派な兵士になろうと青少年集団、ヒトラーユーゲントで奮闘するジョジョを励まし鼓舞するヒトラーだが、ジョジョがユダヤ人の少女エルサ(トーマシン・マッケンジー)と交流し、信念を変えていくとその態度は一転。大声で喚き立て、ジョジョを罵倒するヒトラーだったが、ジョジョはそんな脅しに屈せず、最後には心に巣喰うヒトラーを見事に蹴散らすのだった。
カリスマ性抜群のマッチョイケメン、タイラー・ダーデン(『ファイト・クラブ』)
空虚な日々を過ごすリコール調査員の“僕”(エドワート・ノートン)が、飛行機で隣の席になったことから意気投合したタイラー・ダーデン(ブラッド・ピット)と共に夜な夜な殴り合う秘密組織を作るが…という『ファイト・クラブ』(99)。本作もまた、ある種のイマジナリー・フレンド映画と言えるだろう。
筋骨隆々で顔はハンサム、暴力的だが自信に満ちあふれたカリスマ性抜群の“男のなかの男”であるタイラーは、実はおとなしい“僕”が作りだした理想の人物像だ。僕と仲良く殴り合いをする友だちだったタイラーだが、しだいに不在がちになると、実はテロを企てていることが判明。その企みを止めようと奮闘するうちにその正体が明らかになっていくが、その真実とはいったい…。
まさかの正体が明かされる不気味な美青年ダニエル(『ダニエル』)
内気な少年と空想上の親友、両極にある2人の恐ろしくも美しい関係を描いたスリラー『ダニエル』(18)に登場するイマジナリーフレンドが、タイトルにもなっているダニエル(パトリック・シュワルツェネッガー)だ。
孤独な少年ルーク(マイルズ・ロビンス)は、かつてある事件を機に“空想上の親友”を封印するが、時が経ち孤独と不安に押し潰されそうになったことで、長年の封印からダニエルを解放。親友の助言により、ルークの生活は一変し、やがてダニエルが必要なくなっていくが、ダニエルはそれを許さず…。
カリスマ性にあふれ、浮かべる笑みは不敵な、パトリック・シュワルツェネッガーが演じるこのダニエル。物語が進むにつれ明かされる意外な正体は衝撃的だ。
狂気に侵された人形、ファッツ(『マジック』)
若きアンソニー・ホプキンスの怪演が楽しめる『マジック』(78)は、売れないマジシャンの主人公コーキーが、ファッツという腹話術人形を操りながらマジックをすることで売れっ子となっていくが、実はある秘密を抱えており…というサスペンス。
内気で口下手なコーキーにとってファッツは、人形を通してなら言いたいことが言える重要なアイテムだが、コーキーが一人の時もファッツとずっと話をしているように、実はただの人形ではなく、コーキーが作りだした空想の人格、すなわちイマジナリーフレンドなのだ。
ファッツへの依存度が高まっていくコーキーは、しだいにファッツによって支配されてしまい…という解離性同一性障害的なストーリーが繰り広げられていく本作。コーキーそっくりに作られたファッツの造形もインパクト抜群で、作品の不気味なテイストを盛り上げている。
キュートなもふもふのクリーチャーから不気味な人形まで、様々な形で映画で描かれてきたイマジナリーフレンド。人間の心の内面を扱っている性質上、心温まる感動作からサスペンスまで作品の幅も広く、一筋縄ではいかない作品ぞろいなので、この機会にぜひチェックしてみてほしい。
文/サンクレイオ翼