藤本タツキが劇場アニメ版『ルックバック』に太鼓判!「自分が原作を書いたのに、自分の絵より上手いのが悔しかった(笑)」
<藤本タツキ オフィシャルインタビュー>
ーー原作はどのような構想を経て描かれたのでしょうか?
「もともと読切をたくさん描きたいと思っていて、普段から『こういうのを描きたい』というアイデアを貯めていて、『ルックバック』はそのひとつでした。『さよなら絵梨』などもありましたが、具体的な内容が決まっていたのが『ルックバック』だったので、『チェンソーマン』第一部のあとに描く優先順位は1位にしていました。
内容に関しては、たまたま読んだ本から、『死と和解できるのは創造の中だけだ』というようなセリフがあって、すごくいいセリフだと思ったんですよね。原本だと、単なる皮肉なのか、さらっと流されるようなセリフだったんですけど、自分にはすごく刺さって。『チェンソーマン』や『ファイアパンチ』も含めて、自分の作品全部に一貫していることだなと思いました。なので、それを軸にしようというイメージがありましたね」
ーー本作は、藤本先生の実体験が反映されているとのことですが、具体的にどういった部分でしょうか?
「すごく絵の上手い同い年の相手がいると、すごく気にしてしまうんですよ。僕は中学生のころ、イラスト投稿サイトに年齢が記入されている欄があったので、同年代で上手い人のリストを作っていました。『この人、同い年なのに、どうやってここまで上手くなったんだろう?』と。そのサイトで見つけた作家さんにコンタクトを取って、『どんな参考書を使っているんですか?』とか聞いたりしていました。なかにはすごく丁寧に教えてくださる方もいて、美術高校の話も聞きましたね。『うちの近所にはそんな学校ないよ!ずるい!』と思ったりして(笑)。自分も美術高校に通いたかったと、すごく嫉妬していました」
ーー押山監督の描くアニメーションの世界は藤本先生の目にどう映りましたか?
「押山監督のすさまじい熱量に『この人は命を懸けて描いているんだ!』と感じました。そして、自分が原作を描いたのに、自分の絵より上手いのが悔しかった(笑)。それ以外にも『自分にはこんなことできなかった』という仕掛けがいっぱいありました。例えば藤野が京本の部屋の前に来た時、4コマを落とした床のタイルの色が、一枚一枚きちんと違うんですよ。そこに『うわぁ!』と。街へのおでかけで、藤野に引っ張られる京本の腕の勢いのあるパースもそうです。ほかにも田舎の雰囲気が僕の地元の情景そのままだったり、細かいディテールまですごい。こういう『ここは自分しか気づかないだろう』みたいな部分まで作り込まれていて感動しました」
ーー河合優実さん、吉田美月喜さんの声を聞いていかがでしたか?
「2人ともすごく良かったです!ジブリ作品みたいな抑え目な雰囲気で、落ち着きがありつつアニメらしさもあって、世間に広く受け入れられるんじゃないかと思います」
ーー「藤野ちゃんは何で描いてるの?」というセリフがありますが、先生が描いている理由はありますか?
「20代前半は奨学金を返すため、以降は楽しいから描いています!」
ーー楽しみにしている観客の皆様へ
「監督の才能と熱意が伝わってくれれば幸いです!僕も一観客として楽しみです!」
文/久保田 和馬