公開2週目でNo. 1に立った『ルックバック』“1700円均一”の入場料金、ODSの意味を考える

コラム

公開2週目でNo. 1に立った『ルックバック』“1700円均一”の入場料金、ODSの意味を考える

全国的に猛暑に見舞われた7月5日から7月7日までの全国映画動員ランキングが発表。前週2位で初登場を飾った『ルックバック』(公開中)が、公開2週目にしてNo. 1を獲得。週末3日間の成績は観客動員12万9900人、興収2億2200万円と前週比96%。これはSNSなどで話題が広がり、公開初週から上映館数が増加(それでも全国131スクリーンと決して多いわけではない)した効果が大きいだろう。累計成績では動員36万人、興収6億円に到達している。

“1700円均一”は高いのか、安いのか?映画とODSを分けるもの

【写真を見る】入場料金をめぐって取り上げられる“ODS”とは?
【写真を見る】入場料金をめぐって取り上げられる“ODS”とは?[c] 藤本タツキ/集英社 [c] 2024「ルックバック」製作委員会

『ルックバック』をめぐる話題として、さまざまなところで取り沙汰されているのが「入場料金」である。概ね映画の平均入場料金は1300〜1400円前後ではあるが、本作の場合は1700円。割引の適用が一切されないODS作品として、1700円均一で上映されているのだ。もっとも、映画の一般料金は2000円がほとんど。それと比較すると確かに安い料金設定ではあるが、一般料金きっかりで映画を観るという人ばかりではないというのが現状だ。

学生やシニア料金、サービスデーなどの割引を活用して映画を観ることが当たり前になっている層からすれば、ほかの映画を観るよりも割高になってしまうことは避けられない。もちろん原作者である藤本タツキの人気や作品のクオリティに関しては担保されているとはいえ、いわゆるファンダムの支えをすでに受けている作品というわけでもなく、そこがネックとなっている人もSNSなどでは少なからず見受けられる。

SNSで話題が広がり、前週比96%の動員をキープした『ルックバック』
SNSで話題が広がり、前週比96%の動員をキープした『ルックバック』[c] 藤本タツキ/集英社 [c] 2024「ルックバック」製作委員会

そもそもODSは、映画館にデジタル・シネマ・プロジェクターが導入されるようになった2000年代ごろ、まだデジタルで上映できる作品が多くなかったことから、上映スケジュールの穴埋めやデジタルコンテンツのクオリティを示す目的で取り入れられていった経緯がある。ODSが「Other Digital Stuff」の略称であることからもわかる通り、舞台や音楽ライブの映像収録作品や中継作品といった“映画以外のコンテンツ”を指すものであり、2010年代にデジタル上映が主流となってからは、アニメを中心としたOV作品の劇場イベント上映が急拡大。


昨年度の日本映画製作者連盟発表の全国映画概況によれば、2023年には397本(内訳は邦画120本、洋画79本、中継198本)のODSが公開され、本数自体は前年比110%に対し、興収は前年から倍増の300億円。“イベント上映”である以上、期間や上映回数が限定的であり、かつ上映作品のパッケージも劇場で購入できるケースも多く、そういった意味では「作品を観る/作品と出会う」ということよりも「映画館で体験する」という意味合いが強いといえよう。

公式には“劇場アニメ”と謳われているが、上映時間は1時間未満
公式には“劇場アニメ”と謳われているが、上映時間は1時間未満[c] 藤本タツキ/集英社 [c] 2024「ルックバック」製作委員会

それを踏まえると、『ルックバック』はいくら上映時間が通常の劇場用映画よりも短くとも、公式にも“劇場アニメ”と謳われている以上、本来のODSの立ち位置とは明確に矛盾が生じている。そこにはなんらかの事情があると思うが、現時点ではいまひとつ判然としていないのが事実である。そもそも配信作品の増加も相まって“映画”を定義するもの自体が曖昧となっているなか、映画とODSの垣根も極めて曖昧になっている。ひとつだけ言えることは、割引をめぐるデメリットがあるとはいえ、ベースとなる一般料金の面に限れば長年言われてきた「入場料金が高い」という課題から少しだけ自由になれる方策なのかもしれない。

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