俳優としての才能を発揮した『サマーフィルムにのって』
そんな彼女が俳優の才能を開花させた最初の映画は、2021年の『サマーフィルムにのって』であることは多くの映画ファンが知るところだろう。伊藤が本作で扮したのは、あの勝新太郎をこよなく愛する時代劇オタクの女子高校生ハダシ。所属する映画部がキラキラ恋愛映画ばかり撮っていて、自分が撮りたい時代劇を作れずに悶々としている女の子だ。
それだけに、ハダシが武士役にピッタリの男子、凛太郎(金子大地)との出会いをきっかけに、幼なじみのビート板(河合優実)とブルーハワイ(祷キララ)を巻き込み、時代劇映画の制作に乗りだしていく展開がこの上なく気持ちいい。自分のやりたいことをやるために突き進む。そんなストレートなメッセージが多くの観客の胸に突き刺さり、彼らの心も踊らせた。だが、それもハダシのひたむきさと高揚感を伝える伊藤の前のめりの芝居に嘘がなかったからだ。第13回TAMA映画賞の最優秀新進女優賞と第31回日本映画批評家大賞の新人女優賞の受賞がそれを実証。彼女の知名度も格段にアップした。
『もっと超越した所へ。』『そばかす』など映画に次々出演
ここからの快進撃が凄まじい。『もっと超越した所へ。』(22)ではクズの彼氏(オカモトレイジ)にもらった金のグリルズ(歯につけるアクセサリー)をつけてバカ笑いする金髪キャラになりきり、『そばかす』(22)では恋愛感情が湧かないヒロイン(三浦透子)の妊娠中の妹を等身大で好演。さらに、『まなみ100%』(23)では変わり者の主人公(青木柚)の舌がんを発症する先輩役に挑み、『女優は泣かない』(23)では崖っぷち女優(蓮佛美沙子)のテレビドキュメンタリーの撮影に挑む若手ディレクターを人間臭さ全開で演じているのだ。
また、ドラマ「パーセント」における障がいのある俳優たちとの息の合った芝居にも魅了されたが、出演作が多いだけではなく、味わいの違う作品で多彩なキャラクターを演じ分けられるのが伊藤のスゴいところ。この引き出しの多さと演技の幅の広さが彼女の強みであり、多くのクリエイターから愛される理由もここにある。