『チャチャ』では、天真爛漫な”不思議ちゃん”に
こうして俳優としての実績を着実に積んできた伊藤だが、最新主演映画『チャチャ』で彼女が演じたタイトルロールの女の子は、これまでのどのキャラとも似ていない。なにもしなくても男性が勝手に寄ってくるうえ、そのことを自覚している。社長(藤井隆)に気に入られてイラストの仕事をすることになったデザイン事務所でも周りの女子たちからの自分に向けられた誹謗中傷を耳にするが、そんなの全然気にしていない様子。毎日、お気に入りの服を着て出社すると、好きなスタイルで絵を描き、好きな時に屋上でタバコを吸い、好きな時にダラダラする。そんなチャチャは野良猫みたいに人懐っこいところもある不思議なキャラクターだ。
ところが、屋上で出会ったいつも気だるそうな青年、樂(中川大志)と恋におち、彼の家に転がり込んだところから映画のほのぼのムードが、たちまち不気味なテイストに変わっていく。好きなように生きる前半のチャチャには自分を信じて邁進する伊藤との共通項が見え隠れするし、「好きな人の血を舐めてみたい」というチャチャのぶっ飛んだキャラが暴走する後半では猫のような美しい瞳を持った彼女の未知の魅力が覚醒。新たなる伊藤万理華を目撃することができる。
今後も出演作が続く伊藤万理華の開花を目撃せよ!
とはいえ、進化し続ける伊藤万理華の旅はまだ始まったばかりだ。さらなる出演作も待機中で、清水尋也と高杉真宙がW主演した『オアシス』(11月15日公開)では、彼らが演じた裏社会で生きる若者たちの幼なじみで、数年前の事件で記憶喪失になってしまったヒロインを体当たりで熱演。『港に灯がともる』(2025年1月17日公開)では、1995年の阪神、淡路大震災で被災した神戸に住む在日コリアンの少女に命を吹き込んでいる。この色合いの違う2作を見ただけでも、彼女の本物志向はくっきり。実力派俳優のポジションを確実に手に入れつつある伊藤万理華から、これからも目が離せない。
文/イソガイマサト