『八犬伝』で叶えた、最高のキャスティングと映像表現!曽利文彦監督が語る、10年以上にわたる映画化への想い
「仲間が集まっていく過程のワクワク感も出せればいいな」
一方、“虚”のパートでは「八犬伝」の物語が描かれていく。伝説の8つの珠を持つ8人の剣士が、運命に導かれて集結し、呪いをかけられた里見家を救うために、壮絶な戦いに挑む。個性豊かなキャラクターの冒険活劇には、これぞ日本ファンタジーの原点と言いたくなる爽快感があり、北斎ならずとも、続きが観たくてたまらなくなる。
「例えば、黒澤明の『七人の侍』(54)って、めちゃくちゃおもしろいですよね。でもあれって、モチーフは『八犬伝』だと思うんですよ。なにかひとつの目標に向かって、個性的な仲間が集まってくる。そのストーリーに人はものすごく惹かれるんだなっていう。フォーエバーななにかがあるのは間違いないですよね。我々はそこから逃れられない(笑)」。
とはいえ、大長編である「八犬伝」の物語を、“虚”のパートとして1時間近くに収めるのは至難の業。「本家本元の馬琴の「南総里見八犬伝」の始まりをちゃんと描くと、それだけで何時間もかかってしまうんですよね。物語をかけ足で描くにあたって、どの要素を残すか、ということはすごく考えました」と曽利監督は打ち明ける。
その際に指針になったのは、監督にとって「八犬伝」との最初の出会いでもあったテレビの人形劇。「物語のすべての始まりとなる里見家の愛犬・八房や、聖母のような存在の伏姫、八犬士にとって最大の敵となる美しくて怖い玉梓など、子どものころに観た人形劇から受けた印象、重要なポイントはしっかり押さえたかった。あとは、馬琴が書いた人と人とのつながり、仲間が集まっていく過程のワクワク感も出せればいいなと思いました」。
それぞれに仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字が入った珠を持ち、名字には“犬”の文字が入り、身体のどこかに牡丹の花の形の痣があるという風変わりな共通項を持つ8人の剣士、“八犬士”のキャストには、渡邊圭祐、鈴木仁、板垣李光人、水上恒司、松岡広大、佳久創、藤岡真威人、上杉柊平。さらに八犬士の一人、犬塚信乃を慕う幼なじみの浜路には河合優実。八犬士の敵となる扇谷定正を塩野瑛久が演じている。
今回のキャスティングは、ほぼ曽利監督の希望どおり、いまの日本のエンタテインメントに欠かせないフレッシュな顔ぶれが集結した。生き生きとしたアンサンブル演技を披露していることについて、曽利監督は「キャストの皆さん、馬琴が書いたイメージを現代に置き換えると、こういう人たちになるだろうなと思える人たちです」と胸を張る。2年前におこなわれた本作の撮影のあと、さらなるブレイクを遂げた人も多い。
「また、伏姫役の土屋太鳳さんは『昔から「八犬伝」が好きで、伏姫がやりたかった』と仰っていて、想像していたとおり、“日本のお姫様”にぴったりでした。玉梓は完全に悪役なんですが、これまでに何回かお仕事を一緒にしている栗山千明さんが、美しい女性が一瞬で豹変する凄みのある怖さを表現してくれて、さすがでしたね。皆さん、現場でも楽しみながら、力を入れてやってくださったので、もう感謝しかありません」。
アクションシーンにも注目!「数年前までは技術的に不可能だったシーンもたくさんあります」
原作の名場面として有名な芳流閣の屋根の上での決闘シーンをはじめ、VFXのスペシャリストである曽利監督が創り上げた迫力満点のアクションシーンの数々も見逃せない。「最先端のCGの技術をうまく使って、いまの時代のエンタテインメントの感覚でいくと、こういうふうに描くことができます!屋根の上で戦うとは、こういうことです!っていうのを観ていただきたかったんです。数年前までは技術的に不可能だったシーンもたくさんあります」。
本作の制作を通して「多くの人が娯楽を求めていて、それを作品として提供する馬琴や北斎が必要とされていた江戸時代と、多くの人がアニメやゲームを含め、様々なジャンルのエンタメを楽しんでいる現代。エンタテインメントのニーズって、昔もいまもほとんど変わっていないんじゃないかな」と感じたという曽利監督。
胸が高鳴るエンタメのおもしろさと、それらを生みだすクリエイターの葛藤や執念。“虚”のパートと“実”のパートが合わさったことで、その両方が味わえる本作で、エンタメの魅力の奥深さをぜひ再確認してみてほしい。
取材・文/石塚圭子
定価:1,800円(税込)
発売日:2024年10月03日
発行:株式会社ムービーウォーカー
発売:株式会社KADOKAWA