串刺しに首切断…1976年の伝説的ホラー『オーメン』の主題歌は“悪魔を讃える歌”だ!
この「アヴェ・サタニ」だが、ラテン語のためなにを歌っているかわからず、気になるファンも多かっただろう。繰り返されるフレーズの和訳をお伝えしよう。冒頭の「Sanguis bibimus, Coripus edimus」は「血をすすり、肉を喰らう」という意味で、「Ave Satani」というのは「崇めよ悪魔を」という意味だ。中盤の「Ave ave Versus Christus」は「讃えよ反キリストを」となる。
ゴールドスミスはこのラテン語の歌詞を書くとき、合唱隊のなかにラテン語がわかる人物がいたので協力を得たとされているが、実はいくつかの間違いがあるという。冒頭の「Sanguis bibimus」は非難形なので「Saunguinem bibimus」となり、反キリストを意味するのは「Versus Christus」ではなく「Antichriste」が正しく、肝心の「Ave Satani」は連用形なので「Ave Satana」になるのだとか。
これらのことに関係しているのか「アヴェ・サタニ」というタイトルにも不思議なことがある。公開当時に発売されたサウンドトラック・レコードでは「Ave Satani」ではなく「Ave Santani」と記載されており、邦題も「アベ・サンターニ」となっていた。曲を聴くと確かに「アヴェ・サンターニ」と聞こえなくもない。1990年のCD化の際に、現在の「Ave Satani」に統一されている。
半世紀にわたる「オーメン」シリーズ音楽史
『オーメン』を音で代表する曲となった「アヴェ・サタニ」だが、シリーズものなので普通ならダミアンのテーマとして使いたくなるところだ。ところがゴールドスミスは作曲家として同じ曲を使いまわすことを良しとしなかったのか、『オーメン2 ダミアン』(78)や『オーメン 最後の闘争』(81)では合唱曲ではあるが新たなテーマ曲を書き下ろしている。「アヴェ・サタニ」が再び流れるのは『オーメン 最後の闘争』のエンド・クレジットだけである。番外編的な『オーメン4』(91)ではジョナサン・シェーファーに代わったが、ゴールドスミスのスタイルを踏襲して惨劇のシーンでは合唱曲を用い、劇中では「悪魔の嵐」をゾンビ化した聖歌隊が歌うというシーンも登場している。
リメイク版『オーメン』(06)ではゴールドスミスが2004年に亡くなったため、「スクリーム」のオリジナルシリーズ(96~11)や『ダイ・ハード ラスト・デイ』(13)のマルコ・ベルトラミが担当した。ベルトラミは音楽学校時代にゴールドスミスに師事しており、恩師の代表作を受け継いだ形となり、ゴールドスミス譲りのダイナミックで繊細な音楽を書いている。一部の曲ではゴールドスミスがやらなかった逆再生の曲も披露している。もちろん「アヴェ・サタニ」も新たに録音しているが、予算が潤沢だったようでオーケストラも合唱隊のコーラスも重厚になっているのは皮肉だ。
そして、今春公開されたばかりのシリーズ最新作『オーメン:ザ・ファースト』では『CUBE』(97)や『バイオハザード:ウェルカム・トゥ・ラクーンシティ』(21)のマーク・コーヴェンが音楽を手がけ、「アヴェ・サタニ」もよりドラマティックなアレンジで使われ、「アヴェ・サタニ」を意識したような合唱曲が要所要所で流れている。おそらくご覧になった貴方は、今頃「アヴェ・サタニ」のメロディが耳から離れないことだろう。それでは皆さんご一緒に!「Sanguis bibimus…」
文/竹之内円