ダイナミックな“音“も主役な『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の立役者、サウンド・デザイナーを独占取材!

インタビュー

ダイナミックな“音“も主役な『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の立役者、サウンド・デザイナーを独占取材!

必要とされる音だけが厳選された、ミニマムな音づくり

『スラムドッグ$ミリオネア』(08)などダニー・ボイル監督作の常連で、「ファンタスティック・ビースト」などブロックバスターから『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(23)など音楽映画まで多彩なジャンルで活躍しているフリーマントル。宇宙空間を描いた『ゼロ・グラビティ』(13)ではオスカーに輝いた巨匠は、本作でサウンド・デザイナーのほかスーパーバイジング・サウンド・エディターとしてクレジットされている。担当する範囲は作品ごとにまちまちなので肩書は単なる呼び名だという彼は、自分の役割をサウンド・デザインチームを率いて監督のビジョンをリアルな音に作り上げるまとめ役だという。

今回オンラインで取材に対応してくれた、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の音響監督、グレン・フリーマントル
今回オンラインで取材に対応してくれた、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の音響監督、グレン・フリーマントル[c]Jeff Vespa_Getty Images

そんなフリーマントルが常に心掛けているのが、聞くだけでなく感じてもらえる効果音。映画のなかの状況に身を置いてもらえるよう、耳だけではなく頭や心に伝わる音作りを意識していると語る。最も好きなスタイルはミニマムな音づくりで、その理由はいくつものメインディッシュを一つの皿に並べると豪華に見えるがバランスが悪くなるからだという。本作の作業にあたりアレックス・ガーランド監督と話し合ったのは、楽曲を含め音を絞り込むこと。本当に必要とされる音だけを選び、映像に乗せるというフリーマントルのスタンスが本作でも貫かれている。

ガーランド監督が求めたのは、映像に“合う”音ではなく、“高める”音

映画づくりにおいて、不必要な干渉はせず、各部門の専門家に任せるスタイルが多いという『シビル・ウォー』のガーランド監督
映画づくりにおいて、不必要な干渉はせず、各部門の専門家に任せるスタイルが多いという『シビル・ウォー』のガーランド監督[c]2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

エクス・マキナ』『MEN 同じ顔の男たち』(22)でもガーランド監督と組んできたフリーマントル。「28日後...」シリーズの脚本で脚光を浴びたガーランドが、ボイル作品の常連であるフリーマントルを起用しているのは自然な流れといえる。ガーランド作品の音使いの特徴を聞くと、感情を伝えるための効果音という答。映像にぴったり合う音ではなく、映像をより高めてくれる音を求めているという。

そんなガーランドのスタイルは、各パートのエキスパートに委ねること。『エクス・マキナ』でフリーマントルは編集の調整段階のラフカットを渡され、アンドロイドのエヴァがどんな動作音を立てるのか効果音を一任されたという。チューリングテストに来た若者が複雑な感情を持つエヴァに惹かれていく展開から、フリーマントルは水やクリスタルボウルなどを使って繊細で美しい動作音を作成。エヴァの圧倒的な存在感に大きく寄与した。

【写真を見る】音で体感する戦争の残酷さ…リアルが追求された『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の音響効果
【写真を見る】音で体感する戦争の残酷さ…リアルが追求された『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の音響効果[c]2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

映画のクライマックスはワシントンD.C.での市街戦。ヘリや装甲車、戦車も動員したこのシーンには多彩な音響効果が投入され、戦場のまっただなかに投げ出されたような臨場感が味わえる。一方、中盤でジェシーたちが白人至上主義の民兵たちに拘束されるシーンでは、たった一発の銃弾の怖さがこれでもかと強調されている。シーンや流れに合わせ緻密に組み立てられた音響効果を意識しながら味わうのも、本作の楽しみなのである。


取材・文/神武団四郎

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